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飼育係直伝、アムールトラ観察ポイントその2──応用編
 └─ 2021/09/17
 2020年10月には、「アムールトラ観察ポイントその1──基本編」として、基本的な生態から、多摩動物公園で頻繁に観察できる行動やその意味についてお話ししました。

 今回は「その2──応用編」です。単独で生活しているトラも、時には他の個体とコミュニケーションをとる必要があります。その方法のひとつが「におい」でしたが、今回注目するのは「鳴き声」です。

 人間の会話同様、トラも鳴き声でコミュニケーションをとります。さて、みなさん。トラの鳴き声、聞いたことはありますか? 動物園に通い詰めている方なら聞いたことがあるかもしれませんが、トラの鳴き声をしっかりと聞いたことのある方は意外に少ないのではないでしょうか。というのも、実はトラはある一定のタイミングでしか鳴かない無口な動物だからです。

 今回は、多摩動物公園のアムールトラの鳴き声を紹介しながら、どんな声で、どんなときに鳴くのか、ふだんはなかなか聞くことができない鳴き声についてご紹介します。

 アムールトラ(トラ)が鳴くタイミングは、大きく2つに分けられます。

その1:「威嚇」するとき

《アムールトラが威嚇する時の音声》
 威嚇は、激しく勢いのある声です。縄張りを脅かす相手に出くわしたとき、嫌いな相手に対しては、激しい鳴き声を出して威嚇します。逃げてくれれば無用な喧嘩を避けることができるからです。

 アムールトラの飼育をしていると、機嫌が悪いときなどに飼育係も威嚇されることがありますが、いつやられても驚くほど、これには慣れないものです。

その2:「発情」しているとき


【動画】音声があります

 発情すると、交尾する相手に自分の居場所を知らせるために、オスもメスも大きくのぶとい声で鳴き続けます。声は数キロ先まで届き、単独で生活するトラにとっては、相手を探すために非常に重要な役割を果たします。

 飼育下でも、発情している時はうるさいぐらいよく鳴き、近くで鳴くと腹の底が震えるような感覚を覚えるほどです。また、発情の状態を確かめるためには鳴き声の質、頻度が非常に重要なので、しっかりと聞くようにします。

 それ以外の時期はほとんど大きな声では鳴かず、静かなものです。しかし、トラにはもうひとつ特殊な音声コミュニケーションがあります。

その3:挨拶行動「鼻鳴らし/プルステン」


【動画】音声があります

 おそらくほとんどの方が、今回聞くのが初めてでしょう。これは「鼻鳴らし」「プルステン」といわれ、ごく一部の大型ネコ科動物だけに確認されている、口と鼻から同時に息を吐き、声帯を振動させることで鳴る音声コミュニケーションのひとつです。みなさんの身近なイエネコ(飼い猫)はすることはできません。

 これは、いわゆる挨拶行動なのですが、個体間で顔を合わせた時や好意のある相手に対して鳴らします。実は、飼育をしていてふだんからいちばんよく聞くのは、この鼻鳴らしです。飼育係に対してや、号令や声掛けにあいづちのように鼻鳴らしで答えることが多いです。こちらもマネして返そうとしてみますが、なかなか難しいものです。多摩動物公園の展示場はアムールトラと距離があるのでなかなか難しいかもしれませんが、鼻鳴らしのマネをしたら、鳴らし返してくれるかもしれません。

 秋から春は、アムールトラの発情が強くなってくる時期です。前回の基本編で紹介した、「スプレー」「フレーメン」をしている頻度が増すと、発情して鳴く可能性が高くなります。基本編の行動観察を応用して観察していると、アムールトラの生の声を聞くことができるでしょう。

 今回は、ふだんなかなか聞くことができないアムールトラの鳴き声を、飼育係目線でお届けしました。ではまた、次回お会いしましょう。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 川上〕

(2021年09月17日)



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