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モウコノウマのひづめの管理
 └─2021/05/21
 多摩動物公園では2021年4月末の時点でモウコノウマを13頭飼育しています。動物を飼育管理する中で気をつけるべきことは多数ありますが、ウマの場合重要なことの一つはひづめの管理です。ひづめが伸びすぎると、歩様がおかしくなったり、ひづめの病気を患ったり、最悪の場合には歩けなくなってしまったりします。


伸びてしまったひづめ

 動物園では野生のように広い範囲を歩くこともなく、ひづめがうまく摩耗しないため通常より伸びてしまうこともあります。また、野生馬であるモウコノウマは、家畜馬を扱うようにひづめの手入れをすることができないため、きれいに保つことが難しいのです。

 さらに、荒野を歩き回るモウコノウマのひづめはとても硬く、簡単には削れないため、動物園の環境ではすぐに伸びてしまいます。以前、オスのひづめが著しく伸びてしまい、麻酔をかけて装蹄師(ウマのひづめ管理の専門家)の方に削蹄(さくてい:ひづめを削ること)をしていただいたことがあります。しかしその際、ひづめの中で血管が伸びていたため、「出血してしまうので切るのはこれが限界です」と言われ、思ったほど短くはなりませんでした。

 モウコノウマは野生馬であり、警戒心が強く、人に慣れにくいため、家畜馬のようにトレーニングが実施できません。そのため、削蹄をするだけでも麻酔をかけなければならず、飼育担当者にとってもモウコノウマにとってもとても負担の大きい、危険な作業になってしまいます。なんとか自然に摩耗させられないかと考え、運動場の一部をコンクリートにしたり、運動場の土の素材をいろいろと試したりしました。コンクリートの場合、ひづめは削れはしましたが、期待していたほどではありませんでした。

 そこで次に考え付いたのが砕石です。多摩動物公園では在来馬の北海道和種も2頭飼育しています。その家畜馬舎の運動場の水はけが悪いため砕石を敷いたところ、水はけがよくなっただけでなく、副次的効果として北海道和種のひづめの状態もかなりよくなりました。装蹄師の方にも「北海道和種はひづめが硬いから、砕石が合っているんですね! ひづめがとてもきれいに保たれていますよ」と毎回お褒めをいただいております。

砕石搬入後の後肢
砕石搬入後の前肢

 そこで、北海道和種よりもさらにひづめの硬いモウコノウマにも砕石を敷いてみることにしました。すると、削蹄ではこれ以上切れないと言われていたオスの伸びたひづめが半年でとても短くなりました。毎日少しずつ摩耗したことが、出血することもなく短くなれた要因だと思います。このことにより、麻酔をかけて削蹄する必要がなくなり、ひづめが伸びすぎることによるさまざまな脚の病気や怪我も心配しなくてすむようになりました。また、オスだけでなく、年老いて運動量の減っている老齢個体の反り始めたひづめも短くなり、とてもきれいなりました。

 今回、動物を健康に飼育管理するために、創意工夫をすることがとても大切だなと再認識させられました。今後もウマたちが日々幸せに健康に生活できるよう、励みたいと思います。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 下重〕

(2021年05月21日)



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