ニュース
「シュート」を使ったアジアゾウのトレーニング
 └─2021/05/07
 多摩動物公園でアジアゾウのメス「アマラ」が新アジアゾウ舎に移動してから、もうすぐ一年が経ちます(移動のお知らせ)。アマラが新しい環境に慣れてきた頃から、以前のゾウ舎ではできなかったトレーニングにも取り組んでいます。それは「シュートトレーニング」です。どのようなトレーニングをするのでしょうか。


シュートトレーニングのようす

 動物園でいう「シュート」とは、動物を移動させる際に動物が通る通路のことです。多摩動物公園の新アジア舎では、シュートの中に体重計やゾウの繋留設備などがあります(繋留は綱などでつなぎとめること)。

 移動の前から「PCウォール」(Protected contact wall:こちらの記事をご覧ください)を使ったトレーニングを続けてきました。PCウォールを隔ててゾウの動きをコントロールし、削蹄や採血による健康管理、けがの早期発見や簡単な治療が可能になります。

 一方、シュートではゾウの四肢を繋留することができます。ある程度ゾウの動きを制限することによって、PCウォールでは困難な治療や直腸検査、エコー検査などが可能になるのです。こうしてPCウォールでは日常的な健康管理などをおこない、より詳細な管理等は必要に応じてシュートを利用しています。

 しかし、いざシュートを使う必要が生じたときに、いきなり四肢をつなぐことは困難です。そのため、検査や治療を想定したトレーニングとして、日頃から鎖をつけること、最終的には四肢の繋留に慣らしておく必要があります。

 まず、シュートという空間に慣れさせるところから始めました。シュートの中で落ち着くようになってきたら、「鎖をつなぐための窓」から前肢を出させるトレーニングをします。これがスムーズにできるようになったら、次に短い紐をつけ、足に何かをつけられることへの違和感をなくしていきます。紐に慣れたらいよいよ鎖をつけますが、最初は片肢ずつ「つけて、外して」を繰り返し、つながれることに慣れさせ、つつなぐ時間を少しず長くしていきます。

 両前肢がつなげるようになったら、次は後肢です。柵の間から横に足を出させて鎖をつなぎます。(前肢と同じように少しずつトレーニングをしていきます。
     
前肢とつなぐ練習
後肢をつなぐ練習

 また、このような繋留トレーニングに並行して、実際の検査や治療にそなえてシュートのまわりで人が動いたり、物音が聞こえたりしても大丈夫なように訓練し、身体を触られることにも慣れさせていきます。

 アマラの訓練は工事などによる中断もありましたが、2020年7月1日頃から開始し、いまでは四肢すべてを同時につなげるようになりました。しかし、これで終わりではありません。訓練当初から動けないくらい短い鎖でつないでしまうと、身動きの取れない不安感からトレーニングを受け入れなくなる可能性があります。そのため今は、繋留された状態でもある程度動けるくらいの長さの鎖を使っています。これから少しずつ鎖を短くし、さらに動きを制限されることに慣らしていく予定です。

 ゾウは寿命が長く、健康を保つためには、さまざまな機会に検査や治療が必要になります。その際、麻酔をかけると動物に大きな負担をかけることになります。身体の大きなゾウは長時間横になると、自分の体重で内臓を圧迫してしまうため、命に危険をおよぼしかねません。

 PCウォールに加え、シュートでのトレーニングも進め、ゾウと人がより安全に検査や治療ができる状況を目指します。

(多摩動物公園南園飼育展示係 奥谷〕

(202年05月07日)



ページトップへ