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クビキリギスの人工孵化
 └─2021/04/02
 バッタやキリギリスなど、直翅目の昆虫は冬を卵の状態で過ごすものが多いのですが、今回ご紹介するクビキリギスは成虫で越冬し、春に繁殖するちょっとめずらしいタイプのキリギリスのなかまです。都市部の公園などで見ることができる身近な昆虫の一種です。

 昆虫園の周辺でも採集できますが、飼育担当になった2019年度から、先輩職員にアドバイスをもらって飼育下での繁殖にチャレンジすることにしました。


クビキリギスのメス成虫。産卵管が翅に透けて見える

 クビキリギスのメスは産卵管をイネ科の植物の茎の隙間に突き刺して産卵します。最初はトノサマバッタ用に購入しているイネ科の青草を飼育ケージに入れて産卵させようとしていたのですが、どうもうまくいきません。どうやら、最初に入れた青草の茎の中が空洞になっており、産んだ卵がきちんと収まるスペースがなかったようです。

 そこで昆虫園周辺に自生しているススキの中でも柔らかく、茎の中の層が多いものを選んでケージに入れてようすを見ました。すると、2~3日後に茎の中に卵が産み付けられていました。

 濡らした薄手のペーパータオルをプリンのカップにしき、茎の中から取り出した卵を中に入れて、30℃以上を維持できる環境に置いたところ、約20日で孵化が始まりました。しかし、得られた卵のほとんどにカビが発生してしまい、ダメになってしまいました。

クビキリギスの幼虫
クビキリギスの卵

 そこで、お互いにくっついている卵をできるかぎり1つずつバラバラにし、ペーパータオルに補水するときも卵に直接水をかけないように注意して管理しました。するとカビの発生も見られず、無事に孵化させることができました。孵化する卵の数も増え、3月下旬現在、20匹程度の幼虫が元気に育っています。

 まだまだ改善の余地があり、累代飼育技術が確立されたとは言いがたいのですが、今後も飼育繁殖技術の向上に努めます。

 あまり目立つ存在ではないクビキリギスですが、同じ直翅目のトノサマバッタと同様、昆虫生態園出口側(右ウイング)で展示中です。ぜひ、それぞれの生態を見比べてみてください。

 春は人間にとって出会いや別れ、新しい生活のスタートなど何かと忙しい季節。クビキリギスはそんなこれからの季節を代表する春の鳴く虫です。日々の喧騒に少し疲れてしまったら、暖かい日の夜にそっと耳を澄ませてください。もしかすると「ビーーー」という一風変わった鳴き声が聞こえてくるかもしれません。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 髙田〕

(2021年04月02日)



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