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マムシに咬まれたタイリクオオカミの「ロイ」の治療
 └─2020/11/13
 豊かな自然が多く残っている多摩動物公園内には、飼育動物だけでなく、タヌキやアナグマなど、さまざまな野生動物が生息しています。都内では珍しい野鳥も多く飛来するので、野鳥観察にうってつけの場所でもあります。しかし、中には注意しなければならない動物もいます。その一つがマムシです。

初診時のロイ。顔の左側が腫れています
ロイの部屋で見つかったマムシの死骸

 今年(2020年)の8月末、タイリクオオカミのオス「ロイ」がマムシに噛まれてしまったかもしれないという連絡を受けました。診察に行くと、左の口角周囲から首にかけての浮腫と左前足の軽い歩行異常が見られ、口には何かに咬まれた傷があり、少量の出血も見られました。夜間に動物舎内に入って来たマムシと対峙してしまったようで、朝マムシの死骸がロイの部屋にあったとのことでした。

 マムシはハブより強い毒を持っており、注入された毒の量や噛まれた動物の大きさにもよりますが、マムシに咬まれて重篤化すると最悪の場合死亡することもあります。診察時のロイは元気で、食欲にも問題はありませんでしたが、首の浮腫が悪化すると呼吸困難をきたすこともあるため、症状が進行する前に早急な治療が必要と判断し、抗マムシ血清を吹き矢を使って注射しました。また、抗生剤と抗炎症薬も数日間投与しました。

ロイのレントゲン画像。丸で囲った部位が左前肢の橈骨(とうこつ)と手根関節周囲の炎症部位

 その後、数日で顔まわりの浮腫は治まりました。しかし、左前肢の歩行異常が初診の翌日には見られなくなっていたのに、翌々日に悪化した状態で再発したため、麻酔してレントゲン検査をおこないました。検査では左前足の、人でいう前腕や手首のまわりに炎症が見られました。その患部に外傷はなく、マムシとの関連はわかりません。しかし、ロイとしては、治療期間中は安静を優先して運動場に出してもらえなかったことが不満で、ふだん以上に室内で動き回り、その部分を痛めてしまったことが考えられました。そこで、消炎鎮痛剤を与えるとともに、運動場に出すようにしたところ、2週間後には歩行も正常になり、元気に走り回れるようになりました。


マムシに咬まれてから2か月後。左口角に傷がまだ残っていますが、
気にするようすもなく元気に過ごしています(2020年11月2日撮影)

 マムシは刺激さえ与えなければ、みずから襲って来るような危険な動物ではありません。寒い時期は冬眠に入ってしまうので、今は園内で出会うことはないと思いますが、暖かい時期に来園された際は、不用意に茂み等には近づかず、もし見かけた場合はそっとしておいてあげましょう。

〔多摩動物公園動物病院係 山田有里恵〕

(2020年11月13日)




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