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飼育係直伝、アムールトラ観察ポイントその1──基本編
 └─2020/10/30
 アムールトラの展示場の前で個体の観察をしていると、来園者のみなさんのさまざまな声を耳にします。どんな声が多いかというと「あら、1頭でさみしそうね……」「おしっこした!すごい勢いだね!、「顔をしかめて怒ってるね。笑っているのかな?」などが多いようです。みなさんよく観察していて行動をよくとらえていますが、よく見られるこれらの行動にはじつは重要な役割があり、意図がわかればトラの観察がもっと楽しくなるはず。

 現場で直接解説したいところですが、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響で直接お話しする機会がありません。そこで文章と写真でアムールトラの飼育係が行動の意味やその観察ポイントについて3回に分けて伝授します。今回は「基本編」。冒頭で上がった3つについて、ひもといていきましょう。

基本編その1:単独行動

 まず、意外に知られていないのですが、トラは「1頭」で生活する動物です。自分のなわばりをもち、基本的にその中で生活をします。繁殖期だけはオスとメスがいっしょに行動しますが、それ以外のときに出会うと激しいケンカになってしまいます。つまり、トラは1頭でもさみしくはないのです。

基本編その2:おしっこ

 次に「おしっこ」です。みなさんが見たであろうすごい勢いのおしっこは、「スプレー」と呼ばれます。自分の縄張りを示す臭い付け行動です。しっぽをあげ、臭いをつけたいところめがけて勢いよくおしっこを吹き付けるので、この勢いに驚く方も多いでしょう。私も作業中などに実際にかけられたことがありますが、勢いももちろんのこと臭いもしっかりと付きます。展示場へ出てきたトラは、まずあたりを徘徊して臭い付けて回ります。決まった場所に臭い付けをするので、よく観察しているとトラの通り道がわかってくるでしょう。


基本編その3:フレーメン

 最後に、口角をぐっと引き上げ、口は半開き、犬歯は丸見え、怒っているとも笑っているともとれる表情についてです。これも臭い付けの場所で観察されます。じつはこの表情はフェロモンを感知し分析する「ヤコブソン器官」という場所へ臭いの粒子を取り入れているための生理現象で、「フレーメン」と呼ばれています。おしっこは個体ごとに臭いが違うのでそれをかぎ分けることで、好みの繁殖相手を探したり、嫌いな相手が近くにいることを知ったりすることもできます。ふだんは1頭で生活しているトラにとって、自分が生活していくために非常に大切な情報元を分析している最中の表情なのです。臭い付け行動よりもフレーメンの方が頻度が少ないのですが、根気よく観察してみてください。


 今回は展示場でよくみられる3つを紹介しましたが、他にもさまざまな行動が見られます。飼育係はいくつもの行動を観察して、総合的にトラの状態を判断し、飼育し、管理しています。次回も、トラを観察することが楽しみになるような観察ポイントを飼育係の視点からお伝えします。お楽しみに。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 川上壮太郎〕

(2020年10月30日)



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