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アカガシラカラスバトの繁殖、この1年
 └─2020/10/02

 都立動物園(多摩動物公園、上野動物園、井の頭自然文化園)では小笠原固有の絶滅危惧種(亜種)であるアカガシラカラスバトの保護増殖事業に取り組んでいます。多摩動物公園では、昨年(2019年)夏から秋にかけて2ペアから3羽、秋以降には新たに2ペアから8羽、合計4ペアから11羽の自然繁殖に成功し、飼育数は30羽になりました。今回は秋に繁殖した2ペアについてお話しします。

昨年(2019年)の自然繁殖ニュースはこちら(2019年10月11日)

5-6号室のペア

 1ペアを飼育したのが2部屋がつながっている「5-6号室」です。オスは2019年、メスは2014年に保護された個体です。メスはすでに別のオスと自然繁殖に成功しており、子育て経験が豊富です。昨年(2019年)7月から同居させたのですが、オスは保護された時点で骨折しており、飛翔できず地面を歩いていました。そこで、巣箱を直接地面に置き、出入りができるようスロープを付けました。

 オスはメスが気になるようで、徐々に樹木をつたってメスのいる止まり木まで上がれるようになり、やがて交尾しました。巣箱のある6号室は裏側の作業エリアから見えないように目隠しがしてありますが、わずかな隙間からようすをうかがうと、すぐに気づいて警戒してしまいます。2羽とも野生保護個体だからでしょう、警戒心がとても強いと感じました。


5-6号室
最初の巣箱の位置
巣箱をヨシズで囲った

 10月18日、最初は巣箱ではなく草むらに囲われた地面に産卵しました。雌雄交代で抱卵し、11月7日にはひなが孵化し、順調に育って12月7日、30日齢で巣立ちました。しかし草むらの巣は大雨のときに心配です。そこで巣箱をヨシズで囲ったところ、巣材を運び込み、無事繁殖するようになりました。この結果5羽の雛が誕生しました。今ではオスも地面から直接飛び立ち、止まり木まで飛べるようになりました。

B室のペア

 B室では、飼育係が育てたオス1羽をメスの群れの中に入れたところ、人の手を介さず育ち、自ら子育て経験もあるメスとペアになりました。巣箱も置いたのですが、ヨシズで囲った簡易な巣に産卵しました。

B室での交尾
産卵
巣をヨシズで囲った

 最初の2回は台風と雨の影響で巣を放棄してしまい、その後もなかなかうまくいきませんでしたが、今年1月8日に孵化したひなが順調に育ち、5回目の産卵でようやく繁殖に成功しました。巣が地上にあるので外に出やすいことも手伝ってか、ひなも22日齢になるとときどき巣を出歩くようになり、外にいるオスにえさをねだる姿が見られましたが、えさをもらった後はトレイのえさもついばんでから、そそくさと巣に戻って行きました。ひなは2月6日、29日齢で巣立ちました。B室ではその後も2羽の自然繁殖に成功しています。

B室で孵化したひな
オス親がひなに給餌中
室外でえさを食べるひな

 この1年の繁殖を通じて、ヨシズで囲った簡易な巣でも繁殖できること、ペア以外に複数の個体がいても繁殖できること、繁殖は連続的に続き、巣立ち前に次の繁殖の準備が始まり、この時期のひなへの給餌はオスがおもにおこなうことがわかってきました。

 残念なことに7月と9月、C室と5-6号室のペアのメスが相次いで死亡してしまいました。そこで現在、昨年と今年保護された2羽を加えてペアの組み換えをし、飼育下個体群の遺伝的多様性を高めることを目標に新たなペアリングに取り組んでいます。

〔多摩動物公園野生生物保全センター 小島善則〕            

(2020年10月2日)



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