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コノハチョウ飼育への挑戦と大温室での公開
 └─2020/09/11

 コノハチョウという名前を知っていても、実物を見たことがない人は多いのではないでしょうか? 私も以前はこのチョウを間近で見たことがなく、興味があったものの飼育の難しさを聞いて二の足を踏んでいました。

 そんなおり、昨年(2019年)11月に伊丹市昆虫館からコノハチョウの卵と初齢幼虫を分けてもらえることになりました。多摩動物公園ではタテハモドキを飼育しており、食草(幼虫のえさとなる植物)であるセイタカスズムシソウの栽培量に余裕がありました。セイタカスズムシソウはコノハチョウの食草でもあったため、飼育に挑戦することにしました。

 飼育を続けるために繁殖を優先し、ある程度の個体数を確保するため、初めは裏側で飼育しました。最初の世代が羽化した後、大温室入口手前の通路にある成虫展示ケージを使って小規模ながら展示を始めました。

 しかし、世代を繋ぐべく飼育を続けてみても思うようにいかず、幼虫が途中で次々に死んでしまいます。与える食草の質や飼育場所などを変更してみてもいまだに飼育や繁殖が安定しないのですが、4世代目にしてようやく大温室に放せる数の成虫が羽化しました。そして、ついに今年(2020年)6月5日から大温室での展示にこぎつけました。

 が、おりしも新型コロナウイルス感染拡大防止のため屋内施設の昆虫生態園は閉鎖中。せっかく放蝶できたのに……と残念がってばかりはいられません。開園再開時にも、大温室でコノハチョウを飛ばさねば!とひそかに意気込んでいました。そして、7月9日に昆虫園展示再開を迎え、大温室での公開となりました。


翅を閉じてとまっているコノハチョウ(中央)

 コノハチョウは翅を閉じると枯葉そっくりで見つけるのが難しいチョウですが、大温室ではよく晴れた日中、比較的開けた場所の葉上などで翅を開いてとまっています。翅を開いたときに見える側は濃紺地にオレンジの帯のある美しい姿です。運がよければ、蜜皿や吊るしたパイナップル片で吸蜜しているところを見ることもできます。


吸蜜中のコノハチョウ

 私はコノハチョウがあの派手で目立つ表翅を広げてとまる姿を見て、これで枯葉に擬態する効果があるのだろうか?と疑っていたのですが、とてもすばやく直線的に飛ぶのを見て少し納得しました。鳥などの敵に襲われてもすばやく逃げ、陰に隠れてすぐに翅を閉じ、身を隠すのです。まるで忍者の隠遁(いんとん)の術です。コノハチョウは、この術にかなり自信があると見え、翅を閉じているときは、こちらが近づいても動きません。まだまだ暑い大温室内ですが、コノハチョウを探してそっと観察してみてはいかがでしょう。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 高原由妃〕

(2020年09月11日)



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