ニュース
「軽い」桃太郎と「重い」仁太郎、2頭の道産子
 └─2020/07/24

 多摩動物公園では、2頭の北海道和種馬(通称:道産子)を飼育しています。名前は「桃太郎」と「仁太郎」(じんたろう)と言います。さて、タイトルの「軽い」と「重い」は、2頭の体重のことではありません。それぞれの性格を表しています。

 馬は周囲の物が動いたり、音が鳴ったり、何かふだんと少しでも状態が変わると、それを「プレッシャー」として感じ取ります。たとえば風が強く吹くのもその一つです。そして、そのプレッシャーがなくなったとき、今の例だと吹いていた風がやんだとき、危険が去って安全になったと判断をします。

 桃太郎は神経質な性格で、プレッシャーを感じやすく、すぐ動いてプレッシャーから逃れようとします。このようによく動く馬を「軽い馬」と呼びます。一方、仁太郎は何事にも動じにくい性格です。プレッシャーを感じにくく、また、よく考えてから動くため、動き出しはゆっくりです。このような馬を「重い馬」と呼んでいます。


桃太郎。「無口」を装着しているところ

 トレーニングをしていると、2頭の性格の違いがよくわかります。軽い桃太郎は走るトレーニングが得意です。少しプレッシャーを与えるだけで、「待ってました!」とでも言うかのように駆け出します。反対に、静止するトレーニングはとても苦手で、動きたくてソワソワしてしまいます。

 重い仁太郎はというと静止するトレーニングが大得意です。トレーニング中、そのまま寝ているなどということもよくあります。しかし、走るトレーニングは少し苦手です。こちらがじょうずにプレッシャーをかけないと動きません。トレーニング初心者の飼育係がうまくプレッシャーをかけられず、仁太郎と15分間もにらめっこをしたことがあるくらい動きません。

 多摩動物公園では2頭の健康維持とエンリッチメントのために「ホースマンシップ」と呼ばれるトレーニングを実施しています(ホースマンシップについてはこちらの記事もご覧ください)。これは馬が人を信頼し尊敬することによって自発的に動くようにするトレーニング方法です。この方法によって2頭は楽しみながらトレーニングに取り組んでいます。


仁太郎。乗馬時に使用する「頭絡」を装着したところ

 トレーニング時に「無口」(むくち)という道具にリードを付けて使うのですが、2頭は無口をつけるとトレーニングが始まることを理解していて、私たちが無口を持って運動場に入ると「それを私につけてください」と頭を差し出してくるほど、トレーニングをしたくて仕方がないようすです。飼育係との信頼関係も深まり、今ではできることがたくさん増えました。2頭がトレーニングを楽しむ姿をぜひ見に来てください。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 下重法子・西塔香月〕

(2020年07月24日)



ページトップへ