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可憐に舞う黒い毒チョウ、ベニモンアゲハ
 └─2019/11/08

 「アゲハチョウ」と聞くと、黄色っぽいおなじみのナミアゲハを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。多摩動物公園の昆虫生態園大温室には、ナミアゲハのほかにも黒っぽい色のアゲハが数種類飛んでいます。ベニモンアゲハもその一つです。


温室内で吸蜜中のベニモンアゲハ成虫

 ベニモンアゲハの成虫は、名前の通り後翅の周縁に紅色の小紋と中央の白い紋があるのが特徴です。頭・胸・腹の鮮やかな紅色はひときわ目を引きます。

 ベニモンアゲハは南西諸島に分布し、幼虫は食草ウマノスズクサ科植物に含まれる毒成分アルカロイドを体内に蓄えるため、成虫にも毒があります。鳥などが食べるとまずくて吐き出し、鳥は以後食べるのを避けますが、毒々しい色合いは鳥に対する目印になっていると考えられています。

 こう聞くとベニモンアゲハは捕食されずに生き残る、強いイメージをもつ毒チョウですが、じつは病気に弱く、飼育するのは簡単ではありません。

 十数年前、私は多摩動物公園の昆虫係にはじめて配属になり、ベニモンアゲハを担当しました。当時幼虫20匹ほどを集団で飼育していましたが、終齢まで育ったある日、異変が起こりました。数匹の食欲が急に落ち、元気がなくなり、腹脚で食草にやっとつかまっている感じです。水っぽいフンをしたと思ったら、感染症の症状か、溶けるような状態になり、半日ほどで死んでしまいました。翌日も同様に数匹が死亡。原因不明の感染症でついに展示が途絶えてしまいました。


プラスチックカップで飼育の幼虫 左から蛹、前蛹、終齢幼虫

 今年度ふたたびベニモンアゲハの担当となりました。前回の失敗を踏まえ、使用済みの飼育箱の消毒、飼育室のこまめな換気、4齢幼虫以降の個別飼育をおこなっています。今のところ病気が広がることなく、順調に飼育しています。

 現在、大温室にはよく似たジャコウアゲハやシロオビアゲハの赤斑型のメスも飛んでいます。ぜひ、ベニモンアゲハを探してみてください。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 若井直美〕

(2019年11月08日)



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