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ニホンザルのオスたちのくらし──オス「セタシジミ」の行動を手がかりに
 └─2019/10/06

 伊沢紘生さんの著した『野生ニホンザルの研究』(どうぶつ社)によれば、野生のニホンザルの群れ社会は母系により維持され、メスは基本的に生まれた群れで一生をすごしますが、オスは例外なく生まれた群れを出て行きます。そこで、本来の野生状態とは異なった群れ社会でくらす動物園のサルたちの事例と比較して、ニホンザルのオス社会について考えてみます。


2018年11月、オスの「セタシジミ」を中心とした非血縁のメスたちとのまとまり

 2019年6月13日に死亡したオスの「セタシジミ」は、その前の第1位オスが2012年に死亡してから7年間、多摩動物公園のサル山におけるオスの最優位個体でした。2018年の交尾期(9~12月)には、多いときには10頭近くものメスが彼の後ろをぞろぞろとついて歩くようすが見られました。観察の結果、交尾期に入って気持ちの高ぶった11歳のオスが発情したメスたちの気を引こうと近づき、ときにはひどく咬んだため、その攻撃を避けるためにセタシジミを頼ったのではないか、と考えられました。

 2019年1月、多摩動物公園野生生物保全センターでは、血液を用いたDNA分析(DNAマイクロサテライト解析)によってニホンザルの親子判定をおこないました。その結果を確認してみると、2018年に多摩動物公園のサル山で8頭の母親から生まれた子のうち、セタシジミが父親であると判定された個体はゼロでした。したがって、セタシジミと彼を取り巻いていた非血縁のメスたちとの関係は、交尾や繁殖を目的とした性的なものではないとわかります。

 上記伊沢さんの著書によると、宮城県金華山における野外の研究からわかってきたニホンザルのオスは、2歳頃まで母親などのメスと子どもの中で過ごし、3歳頃から群れ内の年齢の近いオスたちとの親密な関係を確立したあと、4~5歳になると若年オス集団として群れとの距離を置き始め、そしてハナレオスとなったり(ハナレオスは伊沢さんの用語。群れから離れて単独でくらすオス)、群れとつかず離れずの行動をとるオスグループに属す期間を経て、一部の個体はふたたび群れに加わります。自分の生まれた群れでない他の群れに加入できる個体はごく少数ですが、「その平均年齢は金華山では10歳から12〜13歳だろう」とのこと。まさに、上で触れた11歳のオスがその年代にあたります。

 しかし同書では、「体力と気力が充実し、経験も豊な15歳前後から20歳ぐらいまでの壮年のオスが(略)金華山の島という閉鎖環境の中で(略)いかなるドラマを演じているのか、その実際はまだ断片的にしか分かっていない」と書かれています。2018年に17歳だったセタシジミの例は、繁殖の役目を終えた壮年オスのくらしを明らかにするための貴重な例といえるでしょう。

参考文献:伊沢紘生(2009)『野生ニホンザルの研究』どうぶつ社、pp.273-275

〔多摩動物公園南園飼育展示課 由村泰雄〕

(2019年10月06日)


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