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ムフロン「マル」の出産──陣痛に耐えて
 └─2019/07/26

 2019年7月2日14時50分頃、ヒツジのなかまであるムフロンの赤ちゃんが誕生しました。

 その日、出産を予想していた私は落ち着かない心持ちでムフロンの展示場に向かっていました。前日、ムフロンのメス「マル」の乳房がこれまでになく大きく膨れていたからです。出産は近いはず。でも、展示場に到着してみると、ムフロンたちにいつもと変わったところはありませんでした。6月25日に生まれた子どもがそうだったように、出産は夜間が多いので、この日の出産は持ち越しかと思いました。

 ところが、昼過ぎに状況は一変しました。13時50分頃、展示場に行くとマルがお尻から黄色い水風船のようなものをさげてウロウロと歩き回っていたのです。出産の始まり、「破水」でした。私は慌ててカメラを取りに走りました。


 ウロウロと歩き回っていたマルは地面に座り込み、目を細めたり、上唇をめくり上げたりしながら天を仰ぎ始めました。これまでに見たことのない、とても苦しそうな表情です。「陣痛」でした。こんなとき、飼育係もただ見守ることしかできません。

 ほどなくして立ち上がったマルのお尻から白いものが見え始めました。子どものヒヅメの先の「蹄餅」(ていぺい:注)です。マルは歩き回っては足を止め、力んでいます。そのたびに子どもの体が少しずつ姿を現しました。子どもはまだ動きません。そして、子どもの体が8割ほど見えたとき、子どもが大きく何度も頭を振りました。子どもは元気そうです! もうひと息! いあわせたお客さんの「頑張れ!」の声も聞こえてきました。


 14時50分頃、ついに子どもが生まれました。子どもは全身びしょ濡れでぐったりしています。マルはすかさず子どもを舐め始めました。それにこたえるように、子どもは一生懸命立ち上がろうとしています。それから1時間後、子どもの体はすっかり乾き、もう飛び跳ねていました。カメラを回し始めてからわずか2時間のあいだの出来事でした。


 陣痛に耐え、ぶじに出産したムフロンのようすを動画でご覧ください。


【動画】ムフロン「マル」の出産


※蹄餅(ていぺい):生まれた子どもの蹄の先端についている白くて柔らかい部分。母親の体内を傷つけないようについているといわれる。次の写真で出てきているのが蹄餅。


〔多摩動物公園南園飼育展示係 齊當史恵〕

(2019年07月26日)


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