ニュース
ハイイロガンの繁殖に取り組む
 └─2019/05/10

 多摩動物公園は、日本の動物園(公益社団法人日本動物園水族館協会に加盟している動物園)の中でいちばん多くのガンのなかまを飼育しています。

 「ガンのなかま」とはカモ目カモ科の鳥のことです。水辺に生息し、草や穀物などを食べています。多摩動物公園では日本に渡ってくるガンのなかま9種すべてを飼育していますが、ハイイロガンを雌雄とも飼育しているのは多摩だけです。多摩に現在いるオス6羽とメス6羽を繁殖させないと、将来日本の動物園からハイイロガンがいなくなってしまいます。ところが2015年以降、産卵は見られるものの無精卵だったり、卵がなくなってしまったり、繁殖に成功していませんでした。


冬場のハイイロガン。後ろに見えるのが用意した営巣地

 そこで今年(2019年)はハイイロガンの繁殖に力を注ぐことにしました。まず、水鳥池にいたいちばん雌雄どうしの結びつきが強そうなペアを、トキ舎並びの新コウノトリ舎に移しました。ここはハイイロガンだけで飼育できますし、屋根や金網があるのでカラスや他の同居個体から卵を守ることができます。しかし、設置されている池は直径1メールしかなく、2羽で泳ぐには小さすぎます。ガンは水中で交尾するため、繁殖に影響するのではないかと心配でした。


産卵直前のメス。下腹部が膨れている

 そんな中、日も伸びてきた3月上旬から2羽の動きに変化が現れました。2羽で食べるえさの量が増え、ピンク色のくちばしや足がより鮮やかなピンク色に変わってきたのです。そして3月下旬以降、メスの下腹部が膨らんで産卵前の体の準備が整ってきたようでした。

 さらにメスは水の中に入っていることが増え、オスも勇ましく鳴くことが多くなりました。4月に入ると池の周辺の砂が濡れているのを目にする機会が増え、「これは交尾をして、水があふれたのではないか!」と期待が高まってきました。


抱卵中のメス

 しかし、はっきりと交尾が確認できないまま、メスは飼育担当者が用意した営巣地に入るようになり、4月中旬には給餌をしても掃除をしても巣から出てこなくなりました。卵を温め始めたようです。ガンの卵は約1か月で孵化しますが、出てこなくなってから2週間たったころ、一度巣の中を見てみることにしました。

 なんと巣の中には4つの卵がありました。卵に光を当てて発生具合を見たところ、そのうち2個が有精卵とわかりました。直径1メートルのプールでも交尾できたということです。

 孵化までもう少し時間がかかりますが、ハイイロガン繁殖再開に向けた第一歩が踏み出せたと思っています。

〔多摩動物公園野生生物保全センター 石井淳子〕

(2019年05月10日)
(2019年05月22日:「カモ目カモ科」に修正)


ページトップへ