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チンパンジーがほっと一息つく瞬間──動物たちとの距離
 └─2019/04/05

 ある日の夕方、チンパンジーのオス「デッキー」(41歳)が部屋へ戻り、ほっと一息つく瞬間に立ち会いました。

 その日、メスの「ケイ」(38歳)は他の個体との同居練習に取り組んでいました。デッキーは他の個体がケイに悪さをしないように守り、ケイを安心させるという重要な役割をつとめていました。

左:デッキー 右:デッキーを頼りにしているケイ
みんなの中を優しく取りもつデッキー

 練習の後、デッキーが自室に戻って夕方のえさを食べ終えたころ、私はデッキーに水分を補給しようとチンパンジー舎に向かい、少し温めた水をデッキーに差し出しました。デッキーはその水を一気に飲み干し、“はぁ~”と一息。それはまるで私たちが食後にお茶を飲んで一息つくような、そんな安心しきったようなようすでした。

 私たちも慌ただしい一日を過ごした後、安心できる場所へ戻って来たときにほっと一息つくことがあります。でも、そんな場面を見せられるのは家族や気の許せる友人など限られた人たちだけではないでしょうか?

 私がチンパンジーを担当するようになり1年が経過しました。配属当初は戸惑いが多く、不安も感じていました。というのも、私が今まで担当してきた動物はおもに草食動物で、チンパンジーなど類人猿には縁がなく、どちらかと言うと苦手な動物でもありました。そのため、はじめはチンパンジーたちの気持ちがあまり理解できず、緊張の連続でした。今思えば、チンパンジーたちにとってもあの頃の私にはなかなか気持ちが伝わらず、お互いに緊張していたように思います。

 どんな動物も同じですが、動物たちと心を通わせるためには努力が必要です。じっくり時間をかけてお互いのことを知り、コツコツと関係を築いていくことが大事です。チンパンジーたち一頭一頭の表情が少しだけ読み取れるようになったと思えるようになった頃、少しずつ彼らと私の間にあった緊張がほぐれてきました。そしてデッキーがリラックスした素の姿を見て、この一年で少しはチンパンジーたちとの距離が縮まったのかなと思えました。

 少しずつ着実に関係を築いていくことの大切さ。これは動物だけでなく人間社会にも共通していることではないでしょうか? 新年度を迎え、新たな生活に緊張している方も多いと思います。そんな時こそ時間をかけてゆっくり関係を築いていくことを意識してみるといいかも知れません。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 伊藤香緒里〕

(2019年04月05日)


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