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クモの卵嚢から出てきたカマキリモドキ
 └─2017/12/22

 少し前のことですが、多摩動物公園の昆虫園で飼育していた沖縄県石垣島産のイシガキアオグロハシリグモの卵嚢(たくさんの卵に糸を巻きつけたもの)から、1匹の虫が出てきました。見つけたときすでに死亡していましたが、どう見てもクモの子ではありません。

 薄い膜につつまれた前脚の大きな虫……。じつはこれはカマキリモドキという昆虫です。成虫はカマのような前脚をもち、カマキリに似てはいますが、ウスバカゲロウなどと同じアミメカゲロウ目に属します。幼虫はクモの卵を食べて育ち、蛹のまま卵嚢を食い破って外に出て羽化するようです。見つけたカマキリモドキは、羽化前の動く蛹(「ファレート成虫」と呼ばれます)の状態で死んでいました。

卵嚢をかかえるイシガキアオグロハシリグモ
クモの卵嚢から出てきたカマキリモドキ(撮影:平田慎一郎博士)

 くわしい種類を調べようとしましたが、たいていの図鑑には成虫しか載っておらず、同定は難しそうです。そこでカマキリモドキの専門家である、きしわだ自然資料館の平田慎一郎博士に同定を依頼したところ、前胸の形や色、触角の太さ、前脚の黒斑から、石垣島や西表島、台湾に生息するオオイクビカマキリモドキと判断されました。


オオイクビカマキリモドキの成虫(撮影:平田慎一郎博士)

 日本産のカマキリモドキは9種1亜種に分類されていますが、幼虫の利用するクモの種類が知られているのは2種だけです。オオイクビカマキリモドキは、利用するクモの種類をはじめ、生態などの情報が知られておらず、今回の発見は本種が利用するクモについての初めての記録となりました。

 さて、卵嚢を産んだクモを石垣島で採集したのは、2015年7月のことでした。そのときは幼体でしたが、約4か月後の11月に卵嚢を産みました。

 いったいカマキリモドキはどのようにして昆虫園まで運ばれ、クモの卵嚢に入り込んだのでしょう。他のカマキリモドキの生活史を参考にすると、次のように推測できます──まず石垣島で植物に産みつけられた多数の卵の塊から、カマキリモドキの幼虫が孵化。小さな1令幼虫はクモを探し、運よくクモの体につくことができた。しかしそのクモは不幸にも(?)昆虫園の職員に採集され、多摩動物公園まで運ばれた。小さな1令幼虫は飼育担当者にも気づかれず、約4か月ものあいだ、クモの体にくっついたまま過ごした。そしてクモが成体となり卵嚢を産み、ついにその中に入り込むことができた。

 クモの卵を食べて成長し、卵嚢から出たこのカマキリモドキは、うまく羽化できず死んでしまいましたが、利用するクモの種類とその興味深い生態を知る機会を与えてくれました。

※現在、昆虫園ではイシガキアオグロハシリグモは展示していません。

※ここで紹介した内容は、2017年7月に日本昆虫学会の和文誌「昆蟲(ニューシリーズ)」で発表しました。
田中陽介・平田慎一郎(2017)オオイクビカマキリモドキの寄主クモの初記録. 昆蟲(ニューシリーズ)、20(3): 120-123.

〔前・多摩動物公園昆虫園飼育展示係/現・上野動物園西園飼育展示係 田中陽介〕

(2017年12月22日)
(2017年12月27日訂正)


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