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ドイツから来たアルチョムは今
 └─2017/05/27

 2017年1月19日にドイツのティアパルク・ベルリンから多摩動物公園に来園したアムールトラのオス「アルチョム」は、4月23日で2歳になりました。トラは単独性の動物で、1歳半頃には親離れをして1頭で生活するようになり、3歳ほどで精神的にもおとなになります。


 現在2歳なので成長途上ではありますが、体はメスに比べて大きくて太くて立派です。しかし性格は、気が小さくてとても怖がりでした。来園当初は声をかけてもまったく無反応だったので、「ドイツ語じゃないから通じないのかな?」と思っていたのですが、どうやら多摩に来る直前まで母親や、いっしょに生まれたメスたちとくらしていたようなのです。複数で飼育していると、動物の側では自分が呼ばれているとわからないので名前も覚えません。

 ドイツでは管理の仕方も自由だったのか、扉が開いたら外へ出て行くなど、動物園的な習慣も身についていませんでした。もともといるメスの「シズカ」(10歳)や「アイ」(6歳)と対面しても受け入れようという素振りがまったくなく、このままやっていけるのかと心配になりました。

 アイの繁殖相手については3年以上前から計画が動いていましたが、海外との折衝や書類審査などが滞り、計画を変更しながら、最終的にドイツから導入することになりました。トラは4~5歳までに出産を経験しておかないと、それ以降受胎率が下がり、8歳ぐらいで繁殖困難になります。タイムリミットの近いアイと一日でも早くペアリングさせたいのが正直なところです。

 しかし、アルチョムは今まで私が担当したどのトラよりも難しい個体でした。声をかけ続けることで反応するようにはなりましたが、扉を開けたら出て行くといった習慣も、臆病な性格が災いしてなかなか身につきませんでした。広い展示場に出すと脱出防止用の電柵に立て続けに引っかかり、怯えてしまって展示場の1/3ほどしか動き回れません。展示中も池まで行くことができないので、このままでは池に入って暑さをしのぐこともできません。

 そこで、電柵のないガラス張りの展示場に移しました。また、アルチョムをアイに慣らさなければならないので、2頭を午前と午後で入れ替えるようにしました。展示場を共有することで、においを通じて情報交換もできますし、すぐ隣で生活することで少しでも慣れてくれればと考えたのですが、これも無理でした。アイがどこかから出てくるのではないかと一日中怯えていて、とてもふつうに生活を送れる状態ではありませんでした。しかたなくガラス展示場にはアルチョム1頭を出すようにしました。

 ガラス展示場の池は、水位を下げておいてもなかなか入りませんでしたが、大きなブイを2つ繋げた遊具で遊ぶようになってようやく入るようになりました。これも半月ほどかかりました。自分の生活の範疇に入ってこないとわかるとようやく、鼻を鳴らすトラ独自の挨拶をアイやシズカと交わす姿がときどき見られるようになりましたが、これも最近のことです。

 とにかく一つ一つの事柄を覚えたり慣れたりするのに時間のかかるアルチョムですが、焦って変なトラウマを植えつけてしまうとメスと一生ペアリングできない個体になりかねません。しかし、アルチョムのように積極性のない個体は放っておいて時間が解決することはありませんから、少しずつでも刺激や課題を与えていきながら、徐々に乗り越えさせ、成長してもらうしかありません。先は長く、険しい道ではありますが、立派な男に成長できるようにこれからもアルチョムを見守ってください。

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〔多摩動物公園南園飼育展示係 熊谷岳〕

(2017年05月27日)


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