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昆虫園で実験「チョウが食事を一緒にしたくない相手」とは?
 └─2017/05/06

 突然ですが、みなさんは食事をするとき、おいしいものを取り合いになる人や、ましてや自分を攻撃してくるような人やとは一緒になりたくないですよね。花の蜜を吸うチョウも少し似たような行動をとることが、多摩動物公園昆虫園でおこなった実験でわかりました。

 花から花へと飛び交うチョウたちは、舞い降りる先の花をどうやって選んでいるのでしょう。これまでの研究から、花の色や形、匂いなどを認識し、効率よく花を探していることが知られています。では、チョウが注目しているのは花そのものだけなのでしょうか。

トウワタの花を訪れたリュウキュウアサギマダラ
蜜皿にとまるオオゴマダラ

 ハチのなかまは花の上に天敵や他のハチがいると、花を訪れる行動(訪花行動)を変化させることが知られています。しかし、そうした行動はチョウではほとんどわかっていませんでした。その理由のひとつは、自然環境ではチョウの訪花行動を大量に観察するのがむずかしいからです。

 この問題をクリアできる場所といえば……一年中多数のチョウが飛びまわっている多摩動物公園昆虫生態園の大温室(昆虫ユートピア)です。この打ってつけの環境を利用して、研究者の方と共同で実験をおこなうことになりました。


実験をおこなった多摩動物公園の大温室

 大温室にはチョウの餌として、花を模した蜜入りの小皿(蜜皿)が設置してあります。実験では蜜皿をビデオで撮影し、蜜皿の上に天敵であるカマキリの標本を置いたときや、蜜皿の上にチョウがすでにいるときに、飛んできたチョウの行動がどう変化するかを観察しました。

 大温室で観察したチョウは次の16種です(本記事の筆者田中を含め、多摩動物公園職員撮影)。


 2015年3月から7月にかけて、計173時間のビデオ撮影をおこない、これら16種のチョウについて3,225回の訪花行動を観察することができました。その結果、チョウはカマキリの標本がある蜜皿や、自分より大きな種類のチョウがいる蜜皿を避けていること等がわかりました。やはりチョウも、食事の際、近くにだれがいるかを気にしていると言えそうです。

 未解明だったチョウの生態のひとつを、昆虫園ならではの実験で明らかにすることができました。また、この実験のデータから、どんなチョウがどれくらい蜜皿を利用しているのかということもわかります。こうした情報はチョウの飼育展示にも役立てられそうです。

*この実験と考察をまとめた論文は2016年11月15日、「PLoS ONE」で発表しました。
Fukano Y, Tanaka Y, Farkhary SI, Kurachi T (2016) Flower-Visiting Butterflies Avoid Predatory Stimuli and Larger Resident Butterflies: Testing in a Butterfly Pavilion. PLoS ONE 11(11): e0166365. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0166365

〔前・多摩動物公園昆虫園飼育展示係/現・上野動物園西園飼育展示係 田中陽介〕

(2017年05月06日)


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