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予想以上に厳しいケナガワラルーの社会
 └─2017/04/14

 多摩動物公園のオーストラリア園では、毛が長く、ワラビーとカンガルーの間くらいの大きさの「ケナガワラルー」を公開しています。ケナガワラルーの放飼場には、観覧通路から見て右側に屋根つきの個室があり、ここでは「リク」というオスがいつも1頭で過ごしています。なぜリクは1頭でいるのでしょうか?

 ことの始まりは昨年(2016年)12月、「オスのワラルーの顔が腫れて血も出ている」と飼育担当者から受けた連絡でした。急いで向かうと、そこには顔がパンパンに腫れあがったケナガワラルーが1頭たたずんでいました。群れの中でいちばん強かったリクですが、最近力をつけてきた「チャジロウ」にケンカで負けてしまったのです。

ケナガワラルー展示場。右側の個室にリクがいます
チャジロウにやられた直後のリク。
大丈夫かと声をかけたくなります

 顔中傷だらけで血も出ていたので、その場での治療ではなく、麻酔をかけて動物病院に運んで治療することにしました。検査の結果、骨折はなく、また、顔の傷は消毒すれば問題ないほどのものであったので、簡単な処置で退院させました。顔の腫れは、チャジロウから逃げようとして走り回り、壁に顔から激突したことが原因と考えられました。

 事件の後、リクは数日間まったく元気がなく、群れがくらす外の放飼場から離れ、暖かい個室でじっとしていました。ケンカに負けたことがよほどショックだったのか、あるいは頭を強く打ったのではないかと心配していましたが、治療を続けて2週間ほどで顔の腫れが引き、徐々に元気を取り戻していきました。

現在のリク。顔もすっかりきれいになりました
暖かい個室でくつろぐリク

 もう大丈夫だろうと思い、リクを個室から出して群れに戻したところ、なんとチャジロウがリクを再び攻撃しようとしたため、一目散に逃げだしたリクは元の個室に帰ってしまいました。せっかく元気になってきていたリクですが、一気に怯えたようすになったので、しかたなく、また群れから分けて個室で生活させることにしました。

 かつては群れでいちばん強かったのに、ケンカに負けて追いやられてしまったリク。飼育下のケナガワラルーはオスの順位の入れ替わりが激しく、かつ、飼育スペースがかぎられているため、負けたオスは群れの中で行動するのが難しいようです。再びチャジロウにやられそうになったときは“心が折れかかって”しまったようで、目の輝きを失って見えましたが、今では落ち着き、居心地のよい安全な個室でのんびり過ごしています。お立ち寄りの際は、リクをあたたかく見守ってください。

〔多摩動物公園動物病院係 吉本悠人〕

(2017年04月14日)


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