2016年5月7日、多摩動物公園でマレーバクが生まれました。母親リザと父親ダイフクの間に生まれたオスで、名前は「コウ」とつけました。お父さんのダイフク（大福）にちなんで幸福になってほしい、お兄ちゃんのケンと合わせて健康に育ってほしいという願いをこめました。

　お母さんのリザにとっては5回目の出産です。肝っ玉リザ母さんの妊娠出産前後についてご紹介しましょう。

誕生日翌日（2016年5月8日）のコウ		“期間限定”のうり坊模様のコウ。 固形物も少しずつ食べるようになってきました

　マレーバクは妊娠期間が1年以上にもおよびます。リザは2015年の3月末にダイフクと交尾をし、その後もダイフクとの同居を続けていましたが交尾は見られませんでした。日に日に食欲が増し、体も大きくなってきたリザの姿に妊娠の可能性を感じたのが2016年の2月頃でした。

　マレーバクの妊娠期間は390～407日と言われているので、最終交尾から 370日経ったころからリザの腹部と乳房のようすをじっくり観察しました。後肢のつけ根あたりにある乳房をリザの真後ろから見て、その張り具合を見ます。リザの体をブラッシングしながら腹部を触り、胎動が感じられるかを探ったり、乳房をしぼって乳汁が出るかチェックしたり、できる範囲で確認をしながら、日光浴不足や運動不足にならないように、出産ぎりぎりまで日中は放飼場で過ごさせました。

　5月7日も確認作業のあとで放飼場へ出しましたが、少しいつもとようすが違ったので午前中のうちに寝室へ戻しました。そして15時すぎにいつものようにえさを食べているリザの腹部を触ると、今までに感じたことのない強い熱感が手に伝わりました。それでもリザの行動に変化は見られませんでした。

　しかしなんとその後2時間もしないうちに、リザは何事もなかったかのようにコウを出産していました。私は近くにいながら、あまりの安産に貴重なバクの出産を見逃してしまったのです。コウの姿を確認したときは、安心感と共に拍子抜けしてしまい、自分の観察力の甘さにフクザツな思いでした。

　リザは出産後もまったくナーバスになることなく、とてもおおらかに子育てをしています。そんなリザの影響か、コウはのびのびととても順調に育っています。通常、リザとコウはガラス張りの寝室で過ごしているので、開園時間中はいつでもその姿をご覧になることができます。

〔多摩動物公園南園飼育展示係　齋藤麻里子〕

（2016年06月10日）