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アズマモグラとの攻防
 └─2016/05/28

 多摩動物公園の「モグラのいえ」では、モグラとそのなかまたち(トガリネズミ科の動物)が見られます。展示は立体的な構造になっており、モグラが土を掘る姿をアクリル板ごしに観察したり、金属ネットでできた通路内を移動するようすを間近に見たりすることができます。

 モグラのいえの主役ともいえるのは、関東以北の広い範囲(北海道を除く)に生息しているアズマモグラです。アズマモグラは東京都環境局の許可を得て、動物園内で採集しています。モグラが入ると中のしかけで扉が閉まる筒状のトラップ(わな)を使用しますが、気温が高い夏と気温が低い冬は死亡リスクが高いので、採集のシーズンは気候が穏やかな春と秋です。

捕れたばかりのアズマモグラ
給餌ケースでえさを食べるアズマモグラ

 シーズンになると担当者は常に園内の地面に気を配り、モグラの気配を探しています。モグラが穴を掘って地上に盛り上げた「モグラ塚」があればわかりやすいのですが、多摩動物公園は丘陵地なので樹木や笹の根、石などの障害物が土中に多くあり、自由に土を掘れるような場所はかぎられます。

 そこで、園内では塚だけを頼りにするのではなく、地面の盛り上がりやひび割れなどのちょっとした変化でモグラの気配を察知しなければなりません。モグラがいそうな場所を見つけたら、鋭利で細長いスコップを地面に刺してみて、「スカッ」という感触があればモグラ穴の発見です。ただ、そうした地面から20センチくらいまでの浅めの穴は日常的に使っている生活道であることは少なく、えさであるミミズを捕りに来ただけの使い捨ての穴が多いのです。

 また、気候がよい時期でもトラップに入って時間が経ちすぎてしまうと、中でモグラが暴れ、結露した水分で身体が冷えてしまい、衰弱や肺炎、暴れすぎによる肺充血によって死亡してしまいます。死亡させないためには3~4時間おきに見回りをしなければなりません。さすがに真夜中は日中の仕事に差し支えますが、それでも最終が23時~0時、朝は6時に一度見回ります(これは近隣に住んでいるのでできる芸当です)。

 わざわざ見回るのに捕獲率の低い浅い穴に数か所しかトラップをかけないのでは効率が悪いので、少なくとも10か所以上に20個以上のトラップをしかけます。それでも約3日粘って1~2頭捕れれば上出来です。モグラは目が見えないので触覚や臭いに敏感です。自分の掘った穴に嗅ぎ慣れない臭いや変な感触があると警戒し、すんなりとは入ってくれません。トラップ一杯に土を詰めこまれたり、横に別の穴を掘られたりすることがたびたびあります。

 それでも反応があれば応戦できます。トラップの土を掻き出して同じようにしかけるのではまた土を詰められるだけなので、少し穴を掘り進め、トラップの位置をずらすのです。そうすることで捕獲できる割合が以前よりも増えました。しかし、手強い個体も多く、ひたすら土を詰められることもよくあります。

 苦労して捕まえたとしても、飼育の方も一筋縄に行かないのがモグラです。とくにアズマモグラは頑固で気難しく、飼育環境にすんなり順応してくれる個体はまれです。と、モグラの苦労話は尽きないのですが、今回はこのあたりで。

 この記事が掲載される頃には、昼夜問わずに3時間おきに見回りをする地獄のコウベモグラ採集から帰ってきていることでしょう……(涙)。採集後はモグラの頭数も充実しているはずなので、飼育担当者の血と汗の結晶(?)ともいえる「モグラのいえ」のモグラたちを見に、ぜひ多摩動物公園へ足をお運びください。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 熊谷岳〕

(2016年05月28日)


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