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ハチクマにハチの巣を与えてみると……
 └─2016/05/20

 多摩動物公園の昆虫生態園にはさまざまな生き物が生息しています。以前お知らせしたネズミのほかに、ヘビの目撃情報もありますし、トカゲの幼体がクモの巣に引っかかっていたこともありました。

 こういった生き物たちは、来園者の方をちょっと驚かせる程度ですむので、目くじらを立てて追い払ったりはしないのですが、毎年職員が悩まされる危険な昆虫がいます。それはアシナガバチやスズメバチです。

 とくにアシナガバチは頻繁に生態園内に巣をつくり、植物を管理する農園芸職員や飼育職員にとって、かなりの脅威です。もちろん、万が一来園者の方が刺されるようなことがあってもいけません。そのため、見つけしだい駆除しています。

 最近はハチ駆除用にすばらしいスプレーが開発されているので、離れた場所から安全に駆除ができます。とはいえ毎回びくびくしながら、「刺されたら嫌だなあ」という後ろ向きな気持ちで取り組んでいたのですが、そこに朗報が! ハチの幼虫を食べるタカのなかま「ハチクマ」が保護され、多摩動物公園に来たというではありませんか!

 ハチクマはテレビの動物番組などで紹介されることもあるのでご存知の方も多いと思いますが、夏に日本や韓国などで子育てをし、冬は東南アジアに移動する渡り鳥です。保護されたハチクマは推定1歳のメスで、足をケガしており、野生に戻すことが難しいので多摩動物公園に来園しました。


来園したハチクマ

 ハチクマはハチの針をものともせず、巣を襲って幼虫やさなぎを食べるという、独特な生態をもっています。「ハチクマにハチの巣を与えてみたい!」。ハチの巣駆除のモチベーションが一気にあがりました。なんといっても、昆虫生態園のハチの巣を駆除すると同時に、ハチクマに対するエンリッチメントもできるという一石二鳥です。

高枝切りバサミに袋を取りつけて巣を採集
採集したアシナガバチの巣

 さっそく草むらの中にコアシナガバチの巣を見つけたので、薬を使わずに採集することにしました。高枝切りバサミの先に袋を取りつけて巣へと伸ばし、袋をかぶせて根元からきれいに採集することができました。巣はまだ小さく、ちょっと物足りないかしらと思いながらも、飼育担当者に渡してハチクマに与えてもらいました。

ハチクマにハチの巣をわたしてみると……
ハチの幼虫やさなぎを1匹ずつ食べるハチクマ

 すると、ハチクマはすぐそのカギ爪を使って巣をじょうずにつかみ、巣穴から1匹ずつ幼虫やさなぎを引っ張り出して食べ始めました。動画も撮影しましたのでごらんください。

【動画:アシナガバチの巣を受け取り、ハチを食べるハチクマ(約1分)】

 固唾を呑んで見ていた職員一同、ハチクマが熱心に食べるようすを見てうれしくなり、次はもっと大きな巣を与えてみたい!と野望がふくらんでいます。ハチの巣採集には危険がともないますので、安全確保を第一に、ハチクマのためにもハチの巣駆除をがんばって進めていこうと思っています。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 片田菜美〕

(2016年05月20日)


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