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アカガシラカラスバトの自然育雛
 └─2016/04/08

 多摩動物公園の育雛舎で現在、アカガシラカラスバトの幼鳥が育っています。両親が育てる「自然育雛」(しぜんいくすう)による繁殖です。

 多摩動物公園ではこの10年以上、人間が関与する「人工孵化」や「人工育雛」の方法では繁殖していましたが、自然育雛は見られませんでした。そこで、いくつかの試みをおこないました。

FRP製の巣と7日齢のひな(親の腹の下にいる)
19日齢。日中、親は巣から離れている時間が長くなる

 まず、親鳥が落ちつけるよう巣の形を変えました。従来、地上約 1.5メートルに置いた木製の巣箱で産卵させていましたが、現地で見た巣に近づけようと、繊維強化プラスチック(FRP)で木の洞を模した巣を作り、地上に置きました。

 母親は父島で右翼を骨折して保護された個体です。治療のため2015年1月12日、多摩動物公園に運ばれてきました。傷は回復したものの、翼が通常より少し下がった状態となり、ケージの中では自由に飛べるものの、野生復帰は難しいと判断され、飼育を継続することになりました。父親は2011年7月25日に上野動物園で生まれ、2013年2月9日に多摩動物公園へやって来た個体です。

 2羽を2015年12月25日に同居させたところ、翌年1月14日、地上に置いた巣で抱卵していたので、卵を念のため取り上げて孵卵器に移し、親には擬卵(偽物の卵)を抱かせました。これまで親鳥は孵化予定日が来る前に擬卵を抱くのをやめてしまうことばかりでしたが、今回は巣の改良の成果か、しっかりと抱卵を続けてくれました。

 2月1日、嘴打ち(卵を割るためにひなが内側から殻を打つこと)が見られたので親に戻したところ、翌2月2日、親が卵の殻をくわえて巣から出てくるところがモニターに映っており、孵化が確認できました。孵化後、両親は交代しながら、日中はオス、夕方から朝まではメスがひなの面倒を見ていましたが、2週間くらい経つと、日中、親が巣に入る時間が徐々に少なくなってきました。ひなが順調に成育している証です。


巣立ち直後のひな。33日齢

 2月21日(19日齢)に初めて体重測定と性別判定のためのサンプル採取をしたところ、体重は 316グラムで、オスであることがわかりました。その後も順調に育ち、3月3日には409グラムになりました。400グラムを超えれば巣立ちが近づいてきます。3月6日の午前中に巣から出たり入ったりしていましたが、とうとう夕方には飛び立ち、止まり木まで行くことができました。

 動物園で絶滅危惧種の保全に取り組む際、近親交配を回避することが重要です。もともと個体数が少ないため簡単に野生から導入することが難しく、今回のように傷病個体を受け入れるチャンスはとても貴重です。上野動物園でも2012年8月19日に父島でネコに襲われたメスのアカガシラカラスバトを保護受入し、2013年2月4日に繁殖に成功しました。絶滅危惧種の保全事例の一部を、ぜひ知っていただければと思っています。

〔前・多摩動物公園野生生物保全センター/現・上野動物園東園飼育展示係 神門英夫〕

(2016年04月08日)


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