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アジアゾウのトレーニング近況報告
 └─2015/12/18 

 多摩動物公園でアジアゾウに対して「PCウォール」と呼ばれる柵を利用したトレーニングを始めてから2年半がたちました。毎日同じことを繰り返しているようにも見えますが、じつは少しずつ進歩しています。トレーニングの近況をご報告しましょう。 


アンクレットをつけたアマラ。ヴィドゥラもこんな状態を目指して練習中……

 オスの「ヴィドゥラ」(8歳)は、苦手な係留トレーニングに力を入れてきました。半年前は細いロープが体に触れるだけで嫌がっていたヴィドゥラですが、少しずつ練習を続け、足にアンクレットを装着することができるようになりました。最初は「つけて、外して」を繰り返し、足もとでおこなう作業に慣れてもらい、少しずつ装着時間を長くしてきました。今のところ室内でのトレーニングですが、装着時間が延びれば、外でもつけたままでいられます。ヴィドゥラがアンクレットを装着しているのを見かけたら、「トレーニングが進んでいるんだなぁ」と思っていただければと思います。 


アマラ、トレーニング中。ようすを見ながら後ろ足を洗います

 メスの「アマラ」(11歳)は進み具合にちょっとムラがあり、何が原因かはわからないのですが最近、後ろ足をうまく出すことができなくなってしまいました。こんなときは、無理に「あし、あしっ!!」としつこく促しても逆効果です。 

 最初のころに戻って「ここに出すんだよ」とていねいに誘導し、足を出したら「そうだよ。それでいいんだよ」とほめて安心させると、ふたたび少しずつ出してくれるようになります。ときどきこういう状況に直面すると、ゾウから「初心に帰りなさいよ」といわれている気持ちになり、「最近、調子のよいゾウたちに甘えて、作業への姿勢がおごっていたかもしれないな……」と反省するきっかけにもなります。 


わかりづらいのですがアヌーラ肢浴中

 オスの「アヌーラ」(62歳)はさすがの還暦超え、たいていのことには動じることなく、トレーニングも坦々と進んでいきます。最近は、肢浴をしたり、尾に薬を塗る練習をしています。 

 肢浴の際は、大きな桶に足を入れさせるとともに、桶にはお湯を入れ、「足湯」のような状態にします。血行の促進や薬浴のために必要なトレーニングです。最初は見慣れない桶を警戒していましたが、すぐに慣れ、現在は飼育係による「あし」の号令とともに、桶に足を入れるようになりました。 

 しっぽに薬を塗るのは、起こりうるケガの対処のためでもありますが、現在アヌーラのしっぽには毛がないので、ハンドクリームのようなものを塗って皮膚を柔らかくし、毛が生えてくることを期待しておこなっています。ゾウにとってしっぽは自分からまったく見えない部分なので、最初は触れるとびっくりして逃げようとしていましたが、今では水をかけてブラシでごしごし洗っても、薬を塗っても、まったく気にしないようになりました。 

 ──と、このような感じで最近のトレーニングは進んでいます。以前のトレーニングを振り返ると、「ずいぶん進歩したなぁ……」と感慨もひとしおです。今後もトレーニングを続けますので、折を見て近況をご報告します。 
・関連記事「多摩のアジアゾウ、苦手なトレーニングメニューは?」(2015年5月30日)

〔多摩動物公園南園飼育展示係 高村里美〕

(2015年12月18日)


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