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「コウノトリ野生復帰研究セミナー」を開催しました
 └─2015/03/20

 2015年2月21日、コウノトリの野生復帰を取り巻く状況について理解を深める「コウノトリ野生復帰研究セミナー」を多摩動物公園で開催し、100名以上の方にご参加いただきました(告知記事はこちらです

 動物園でなぜ野生復帰がテーマ?と思われた方も多いでしょう。野生復帰は、飼育下繁殖した個体群をもとにおこなわれています。野外の個体数が順調に増えてきた今、野外・飼育どちらの個体も健全に維持していくには、双方の連携が必要不可欠になっているのです。


コウノトリの郷公園・山岸哲園長の基調講演


 野外・飼育個体の一元的管理を目指し、兵庫県立コウノトリの郷公園、公益社団法人日本動物園水族館協会、多摩動物公園が主導して設立した「コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル」(略称:IPPM-OWS)。今回のセミナーは、このIPPM-OWSの代表でもある、コウノトリの郷公園・山岸哲園長の基調講演で始まり、野外の個体に対する“餌やり”の是非なども問題提起されました。読売新聞の松田聡氏には、この10年間、新聞記者として豊岡の野生復帰事業を見守り続けてきた立場で講演していただき、コウノトリの野生復帰をこれから目指す2つの自治体からは、取組み事例の報告がありました。


パネルディスカッション


 生息域内・域外の関係者がパネラーとして参加したパネルディスカッションでは、「コウノトリの野生復帰の意義と今後の展望」をテーマに、会場からいただいた質問にも答えるかたちで討論を進めました。「なぜコウノトリなのか」「多摩動物公園で50羽も飼育する理由は」などの質問のほか、個体の地元定着のような今後直面するであろう課題、また、動物園としての携わり方にもふれ、野生復帰事業と飼育下繁殖のつながりや普及啓発の重要性を再確認する意見も聞かれました。

 セミナー開催当日、たくさんの質問をいただいたのですが、時間の都合でごく一部しか回答できませんでした。IPPM-OWS事務局からの回答を以下に掲載します。

〔多摩動物公園 野生生物保全センター 秋川貴子〕

◎「コウノトリ野生復帰研究セミナー」でいただいた質問への回答

 「コウノトリがこの状況にまで至ったら人は手を出さない」という目安はあるのですか?
 野生に放した鳥は「無主物」、つまり所有者のない物として取り扱いますが、将来にわたって近親婚等をなるべく避けることが重要なので、そのために一定の管理はしています。また、けが等のやむを得ない場合に再び人間の管理下に置くことがありますが、そうしたケースを除けば、人が再び手を出す、つまり再び収容することはしない方針です。

 中国産と旧ソ連産のコウノトリは同じものなのですか?
 「種」としては同じです。遺伝子レベルでどの程度の差があるかはわかっていませんが、ロシアと中国の間で渡りをするので、基本的に同じと考えられます。「中国産」「ソ連産」という分け方は、日本に入って来た個体がどこから導入されたかという見方によるものですが、分類学的にはあまり意味をもたないと思われます。飼育下での繁殖にあたっても、とくに分けていません。

 コウノトリの野生復帰は人や生態系に害を及ぼさないのですか?
 当初は農業被害が心配されましたが、調査の結果、影響のないことが確認されました。生態系への害も見られてはいませんが、コウノトリの郷公園では生物調査等のモニタリングを継続的におこない、影響等を調べています。

 多摩動物公園にもたくさんコウノトリがいます。動物園が野生復帰に取り組んでもよいのでは?
 野生復帰を成功させるには、地域の理解や支援、地域との連携が必要です。動物園が勝手にやってよいものではありません。生息域外で個体群を維持すると同時に、兵庫県や他の自治体等との連携を深めることも重要であり、まずはその観点から野生復帰事業に関わっていくのも動物園の大切な役割と考えています。

 生息域外での血統管理の今後は?
 世界的傾向から見て、野生個体を飼育下に入れるのは困難です。まずは飼育個体の維持を確実に続けるべきであり、野生個体が十分に回復したときに初めて、野生からの導入を具体的に検討することになります。

 コウノトリの野生復帰を進めるにあたって必要な条件とは?
 大まかに言って、飼育施設が整っているとともに飼育技術があり、放鳥後のコウノトリが生息できる環境が整備されていて、社会的にも地域住民による受入態勢が整っていることが必要です。現在、豊岡の例を参考にしながら、コウノトリがくらせる条件を探っています。福井県や野田市でも、あくまで「試験放鳥」という立場に立ち、餌になる生物量の調査など生息環境のモニタリングをしながら進めています。

(2015年03月20日)


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