ニュース
チンパンジー、自動販売機の利用──新たな行動
 └─2015/01/17

 多摩動物公園のチンパンジー舎にはジュースの自動販売機が設置されていて、毎日13時半からおこなう「キーパーズトーク」では、チンパンジーが自動販売機を使うようすをご覧いただいています。

 全20頭のうち、自動販売機にコインを入れて使う行動ができるのは15頭です。しかし、それだけでジュースを手に入れることはできません。近くに順位の高い個体がいると、出てきたジュースを持って行かれます。そこでジュースを買うときは周囲に注意を払い、自分より強いチンパンジーが近くにいないのを確認して買い物をしています。

 最近、1頭のチンパンジーが新たな行動を見せてくれました。「チコ」という20歳のメスです。「チコ」は2001年、群れの中で初めて自動販売機での買い物に成功した個体です。

 その日、チコは飼育係からコインをもらうと自動販売機の前に座りました。近くにチコより順位の高いメス「ナナ」がいるので、チコはその動向を気にしていました。ナナもチコの動きを気にしています。

 チコは何度も立ち上がってはコインを入れる素振りを見せたり、ボタンを押したりしています。他のチンパンジーでも同じような行動は見られますが、たいていは自分より強い個体の動向に応じて、途中で止めたりするものです。私はチコもコインを入れるのを迷い、葛藤しているのだと思っていました。

 しかし、違いました。チコはコインで自動販売機を叩いてカチャカチャと金属音を出し、ボタンを押したりしながらナナの動きを観察しています。初めはナナも近寄ろうとしたり、視線を送ったりしていましたが、隣の個体とグルーミングを始めると、次第に反応しなくなりました。ナナの反応が完全になくなったのを確認すると、チコはコインを入れてジュースを手に入れたのです。

 動画(47秒)をご覧ください。


 自分より強いチンパンジーの場所を確認したり、その個体が自動販売機から離れるのを待って買い物をする行動はよく見られますが、今回のチコのように、音を使って相手の動向を探る行動は初めて観察しました。チコがいつからこのような行動をしているのかわかりませんが、チンパンジーの能力の高さを再認識した瞬間でした。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 廣瀬 格〕

(2015年01月17日)



ページトップへ