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順番待ちができるオランウータン
 └─2008/12/12

 最近、多摩動物公園のオランウータン展示場では、放飼場に出ているジプシー、ジュリー、ユキ、キキの午後のおやつ(ヨーグルトと牛乳)を格子ごしにあたえています。

 彼女たちは以前から、1個のヤシの実を仲良く分け合って食べることができます。では「順番待ち」はどうでしょう? 人間でもがまんできない人がいる順番待ち。そこで、ふだんは寝室で個別にあたえているおやつを、複数がいっしょにいる放飼場であたえてみることにしたのです。

  結論は……「順番待ちはできる」でした。おやつの用意をして飼育係が格子の前に行くと、たいてい食いしん坊のジュリーとユキが格子の前で待ちかまえています。そして、キキとジプシーがうしろで順番を待っています。

 ユキはほかのオランウータンが食べているところを「ガン見!」して、スプーンの上のヨーグルトを見つめ、食べているオランウータンの顔すれすれまで近づいて見ています。でも、横取りはしたことがありません。また、どの個体も自分の分がすんでしまうと、うしろで待っているオランウータンのために場所を交代します。

 なごりおしいのか、なかなか場所を代わろうとせず、ジッとしていることもありますが、うしろにいるオランウータンが声を出したり、肩を叩いたりすると、しぶしぶ場所を譲ります。

 他の個体を押しのけて食べることがあっても不思議ではないのですが、争うことなく、ちゃんと順番を待つオランウータンたちを見ていると、ほんとうに感心するばかりです。

 オランウータンとちがって、あらかじめ食事の順番が決まっている動物たちもいます。たとえば、群れをつくる動物の場合、厳格な順位制があることが少なくありません。群れのリーダーとなる個体と劣位の個体とのあいだにはっきりとした順位があり、優位な個体よりも先に劣位な個体が食物を食べようとすると、激しい争いが起こることさえあるのです。

 オランウータンは、安定した集団をつくることがない単独生活者です。単独生活をしているからといって、一生ほかのオランウータンと全く会わない生活をするわけではありません。しかし野生でも、一本の木になる果実を求めて、多くのオランウータンが争うこともなく、いっしょに食事をしているところが観察されています。

 「他者の存在を認めて、おたがいに主張しすぎない」オランウータンの行動を見ていると、人間も学ぶべきことがたくさんあるように思えます。のんびりゆったり、仲良く過ごすオランウータンたちにぜひ会いに来てください。

写真上:ジプシー
写真下:ユキ(左)とキキ

〔多摩動物公園南園飼育展示係 清水美香〕

(2008年12月12日)



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