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つらいけど……楽しい!! 底曳き網採集
 └─ 2022/01/07
 葛西臨海水族園では展示生物を集めるために、さまざまな方法で生物採集をおこなっています。今回は、「深海エリア」で展示している生物を採集する方法のひとつ、底曳き網漁について紹介します。

 底曳き網漁とは、大きな袋状の網を海底に落とし、底をさらうように曳く漁法です。表層の水温が冷えて深海の水温との差が小さくなる冬から春に、私たちは底曳き網漁船に乗船します。

 日の出前のまだ暗いうちに出船し、採集地点である水深約200~300mのポイントに向かいます。到着したら網を船の後方から海に投入して底に着けます。着底を確認したら、船を低速で進めて曳いていきます。この網を曳いているあいだ、船上には独特な「揺れ」があり、多くのスタッフが船酔いに悩まされます。船に自信のあった私も、初めて乗ったときにひどく船酔いしてしまい、つらかったのを覚えています。ボーっとする意識のなかで、先輩から「吐いてもいいから手を動かせ!」と激励?されたことは、いまとなってはいい思い出です。


独特な揺れにダウンしてしまいがちな底曳き網採集

 曳いた網を船に上げ、袋網の中身を海水を入れた容器へ出して、展示したい生物を選別していきます。

 このとき、多くの生物が入っているため互いに体を傷つけることになり、メンダコやナマコなど体がやわらかくデリケートな生物を早く見つけて、慎重に水ごとすくい上げます。蓄養用の水槽に入れたあとは、水温が上がらないように海水氷を浮かべて水温を低く維持します。


海水氷を使って水温を低く維持する

 また、採れた生物のなかには、ベニカワムキなど急激な水圧変化の影響で浮袋が膨らんでしまい、うまく泳げなくなってしまうものもいます。

 そのようなときには水圧をかけることのできる専用の金属製水槽(圧力水槽)を使います。加圧したあと、徐々に圧力を下げることで、大気圧下でも正常に泳げるように治療するのです。

浮いてしまう魚は圧力水槽で加圧治療をおこなう
治療に成功したベニカワムキ

 採れた生物ごとに迅速な対応の求められる底曳き網採集ですが、めったに見ることのできない深海のさまざまな種類の生物を採集することができるので、次の網にはどんな興味深い生物との出会いがあるのかと、網が上がるごとにわくわくするとても楽しい採集です(船酔い以外は)。

 今年の冬も、底曳き網漁での採集が計画されています。「深海エリア」の展示にご期待ください。

〔葛西臨海水族園飼調査係 小川悠介〕

(2022年01月07日)



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