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大きい水槽で競い合う、小さなスミツキカミナリベラ
 └─2020/08/14

 色とりどりの魚が泳ぐ小笠原の海を再現した「小笠原の海4」水槽は、「東京の海」エリアでもっとも大きい水槽です。悠々と泳ぐアオウミガメ、群れて泳ぐウメイロモドキにアカヒメジ、日本の固有種であるユウゼンなど、小笠原を代表する生き物を現在約20種展示しています。


色とりどりの魚がくらす「小笠原の海4」水槽

 さて、今回紹介するのはスミツキカミナリベラというベラ科の魚です。水槽の左右に配置されている岩場の近くを探してみると、全長10cmほどの魚を見つけることができるでしょう。背中側が少しくすんだラベンダー色、おなか側に網目模様、目の下には黄色のラインが入っているのが特徴で、胸びれを器用に動かしてすばやく泳ぎます。


スミツキカミナリベラ(イニシャルフェイズ)

 日本の固有種で、小笠原諸島では浅い海でよくみられるスミツキカミナリベラは、2020年1月8日から展示を始めました。展示した当初は他の魚の勢いに負けて隠れてしまわないか心配でしたが、思いのほかすぐに水槽の環境に慣れて泳ぎまわるようになりました。しかし、ホッとしたのもつかの間、最近は仲間同士で追いかけ合うようになったのです。


動画:追いかけ合うスミツキカミナリベラ。最初に追いかけて場所を〇で示します

 どうしてこのような行動をするのでしょうか。答えはベラ科の繁殖生態にあります。ベラ科の魚は一生の間に体の色や模様が変化するとともに性転換する種が多く見られ、スミツキカミナリベラもその一種です。とくに、体が大きくて力の強い個体が、「イニシャルフェイズ」から「ターミナルフェイズ」(下記記事参照)へと変化していくと考えられています。それを念頭に水槽の中を観察すると、大きい個体ほど、追われる側ではなく追う側になっていて、その力の強さを誇示しているようにみえます。このように水槽の中では常にスミツキカミナリベラどうしで競い合っているのかもしれません。

※イニシャルフェイズとターミナルフェイズについてはこちらの記事をご覧ください。
 「大変身する魚、クギベラ」(2015年4月3日)

 スミツキカミナリベラはターミナルフェイズになると体が鮮やかな青緑色に変わり「スミツキ」という名前の通り墨をたらしたような模様が体側の中央にうかびます。現在、展示している個体はすべてイニシャルフェイズですが、やがて群れの中からターミナルフェイズが現れるかもしれません。大きい水槽では体が小さくてあまり目立たない魚ですが、葛西臨海水族園にお越しの際は、スミツキカミナリベラのこれからに期待を寄せながら、その行動をじっくり観察してみてください。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 八木花乃香〕

(2020年08月14日)



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