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けんかの仲裁──擬岩の出入口を小さくすると
 └─ 2019/08/16
 私たち葛西臨海水族園の飼育係の仕事は、水槽でさまざまな生き物を飼育し、展示することです。しかし、水槽の中に入っているものはそれだけではありません。水槽の中を本当の海の中のようにレイアウトすることも飼育係の仕事のひとつです。

 岩などを配置して見た目を生き物の本来の生息環境に近づけるとともに、ふだんの居場所として陰になった場所や狭い隙間を用意しています。しかし、本物の岩はとても重いため、大きい岩をレイアウトに使うのは簡単ではありません。そこで、「擬岩」(ぎがん)と呼ばれる作り物の岩を使っています。素材は繊維強化プラスチック(FRP)などの軽くて強いもので、中は空洞になっています。

 擬岩に空洞があるのは軽くすることだけが目的ではなく、重要な意味があります。生き物が安心して休むことができる「隠れ家」を提供しているのです。また、縄張りをもつ種類が他の生き物を追い回してしまうことがあります。そんなとき、追われている生き物が擬岩の空洞に逃げ込めるようにしています。


擬岩の隙間に入り込んでいるドクウツボ

 「世界の海」エリアの「南シナ海」水槽には、左右の端に背の高い擬岩が入っています。先日、擬岩の裏側に開いていた大きな出入口を小さくなるように改良しました。出入口が大きいとドクウツボが擬岩の中に入ってしまうからです。飼育しているドクウツボは体が大きく、とても強い魚なのでそもそも隠れる必要はないのですが、狭いところが好きなので擬岩の中を居場所として選ぶことが多かったようです。擬岩に入ってしまうと、みなさんがドクウツボを見られないだけでなく、小さな魚たちが擬岩を利用できなくなってしまいます。

 出入口を小さくした結果、小さい魚たちがときどき擬岩に出入りしてじょうずに利用しています。ドクウツボもいやがるようすは見せず、擬岩の外の隙間に落ち着いています。今回の改良によって魚たちは安心して過ごせるようになったようです。

 水槽をじっくり観察していると生き物どうしの力関係も見えてきます。相手に対してどんな立場になっているのか、想像しながら観察をしてみると違った楽しみ方ができるはずです。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 市川啓介〕

(2019年08月16日)


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