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「掃除屋さん」と見せかけて……擬態で身を守るニセクロスジギンポ
 └─2018/12/28

 「ホンソメワケベラ」という魚をごぞんじですか? 他の魚の体についた寄生虫などを食べることから「掃除魚」とも呼ばれるベラのなかまです。現在、葛西臨海水族園の「世界の海」エリアではいくつかの水槽で展示しており、実際に掃除をしている姿も見ることができます。


他の魚の体を掃除するホンソメワケベラ

 「インド洋1」水槽をのぞいてみると、ホンソメワケベラが2尾いるように見えるかもしれません。でも、よく観察してみてください。パッと見はそっくりですが、片方は「ニセクロスジギンポ」というギンポのなかま。まったく別の魚なのです。「背びれの始まりの位置」や「口の位置」が違うので、じっくり観察してください。


ニセクロスジギンポ(左)とホンソメワケベラ(右)。背びれの始まりの位置が異なる


ニセクロスジギンポ(左)とホンソメワケベラ(右)。口の位置が異なる

 ニセクロスジギンポは、ホンソメワケベラに擬態しているとされています。ホンソメワケベラは自らが掃除魚だとアピールするために独特の泳ぎ方をするのですが、ニセクロスジギンポはこの動きもまねるため、敵に捕食される可能性が低くなるとされています。

 また、掃除魚と勘違いして近づいてきた魚のひれの一部を食いちぎって食べていくこともあります。ただし、ひれの一部を食べることが頻繁にあるわけではありません。野生ではケヤリムシの鰓冠を食べているところや他の魚が岩などに産みつけた卵に複数尾が集まって食べるところが観察されています。

 「インド洋1」水槽内でもそうした習性が見られます。以前、岩に産みつけられたデバスズメダイの卵をニセクロスジギンポが食べようとしていたことがありました。自然の中では、複数で食べに行くことによって、卵を保護している親魚からの攻撃を分散させることができると考えられます。しかし、1尾で食べに行ったこの個体は親魚に執拗に攻撃されて傷を負ったため、水槽から一時避難させました。今は水槽内に戻しましたが、もしまた卵が産みつけられると、こりずに狙うかもしれません。ホンソメワケベラと姿が似ていてもくらし方は違うニセクロスジギンポ。その今後に注目してください。

・関連記事「人気者の「掃除屋さん」ホンソメワケベラ」(2016年2月26日)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 幅祥太〕

(2018年12月28日)


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