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小笠原の海に潜って──ユウゼン調査を飼育現場へ活かす
 └─2018/03/

 ユウゼンは日本固有のチョウチョウウオ類で、小笠原を代表する魚のひとつです。葛西臨海水族園では、2012年度から飼育下繁殖や生息域での保全に役立てることを目的に、小笠原諸島でユウゼンの生態を調査しています。今回、2018年3月に小笠原諸島でおこなわれた潜水による目視観察の調査で経験したことをお話しします。


 調査地の水深は約10メートル、好条件であれば20メートルほど先を見通せる透明度で、目視観察には最適です。海底は黒っぽい岩場と白い砂地にわかれ、岩場には小規模なサンゴ群落も見られます。そのサンゴ群落のあいだを群れ泳ぐスズメダイ類、黄や緑など色鮮やかなベラ類やチョウチョウウオ類などの小型の魚たち、これらの群れの中を悠々と泳ぐ全長40センチほどの大型のブダイ類などが印象的でした。

 そんな中、ユウゼンが幅2~3メートルほどのテーブル状のサンゴ群落や幅10メートルを超える岩場などを中心に行動していました。私たちのこれまでの観察で、この時期のユウゼンはそれぞれの行動範囲に単独またはペアでいることがわかっています。ペアは、お互いの体が触れ合うくらい接近することもあれば、ときおり10メートル以上離れることもありますが、たいてい両者がつかず離れず、あるていど決まった行動範囲内を遊泳します。


 今回、ユウゼンの観察中にこんなことがありました。行動範囲が一部重なるような場所で2ペアが入り交ざることがありましたが、とくに攻撃し合うこともなく、ほどなく1ペアずつになりそれぞれの場所へ戻って行ったようです。また、ユウゼンがキホシスズメダイの群れに接近したときは、ユウゼンが背びれを立てて警戒(威嚇)したり、追い払われたりすることもありました。

 さらに、ユウゼンの飼育担当者として興味深かったのは、いずれの個体もサンゴや岩の表面を頻繁につつく摂餌行動が観察されたことで、日ごろ飼育下での限られた給餌頻度とは極端に異なっていたことです。

 今回の生息地の観察から、ユウゼンの行動範囲の広さを考慮した飼育水槽の大きさや適正な飼育尾数、ユウゼンをとりまく他種(魚)との同居の可能性、頻繁な摂餌行動から給餌回数の見直しなどを検討できるでしょう。今後、ユウゼンを中心とした「小笠原の海」水槽の展示をさらに充実させるとともに、栄養状態などをさらに考慮し、ユウゼンをよりよい状態で飼育し、将来的に繁殖にも繋げていこうと考えています。

関連記事
 「小笠原でユウゼンの生態調査を始めました」(2012年11月2日)
 「南の海でユウゼンを調べる」(2015年7月10日)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 太田智優〕

(2018年03月23日)


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