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キングジョージ島調査採集レポート[1]
 └─2018/02/16

 葛西臨海水族園では2018年1月31日から、南極半島近くのサウスシェットランド諸島キングジョージ島に職員3名がおもむき、チリ南極研究所(Instituto Antártico Chileno 通称INACH)の協力のもと、南極周辺に生息する生物の調査採集を実施中です。水温1℃ほどの南極の海の中はどのようなものでしょう。現地からレポートします。

 私たちが活動している場所のひとつ、INACHのエスクデロ基地正面の砂礫海岸は、水深約3メートルからシルト状の泥底となり、沖へと続きます。水深10メートルくらいまでの斜面に生き物はあまり見られず、それを超えたあたりから急にさまざまな生物が見られるようになります。浅いところは流氷の影響を受け、とくに付着生物など移動のできない生き物にとってはすみにくい環境なのでしょう。

 水深10メートルより深い泥底には、ところどころちぎれた海藻が集まった「藻溜まり」が見られます。数種の海藻が積み重なって複雑な隙間がつくられ、無数のヨコエビのなかまや魚類などが見られます。水温の低い南極の海では、ちぎれた海藻もすぐに腐ることはなく、ゆっくり時間をかけて分解されていきます。そのあいだに新しい藻が加わり、藻溜まりは常に安定して存在するため、いろいろな生き物が隠れたり、えさをとったりする場所として利用しているものと考えられます。


ダスキーノトセン

 藻溜まりで見られる生き物を紹介しましょう。体長10〜20センチほどのノトテニア科の魚、ダスキーノトセンは藻溜まりの上の方に浮いて泳いでおり、近づくと藻溜まりの中にスッと隠れてしまいます。うきぶくろをもたないダスキーノトセンが、ふだん海底から離れて泳いでいるのは何か理由があるはずですが、詳しい研究はまだないようです。


ブルヘッドノトセン

 積み重なった藻の下には、体長40センチほどのブルヘッドノトセンが隠れています。あまり泳がず、藻溜まりに集まる他の魚やヨコエビ類、海藻などをえさとしているようです。


グリプトノートゥスアンタルクティクス

 全長6〜7センチほどのワラジムシのような形をした等脚類のなかま、グリプトノートゥスアンタルクティクスは周囲の泥底でもポツポツと見られますが、藻溜まりでは明らかに多く見られます。今は繁殖期のようで、腹部にある保育器官に幼体をつけたメスも少なくありません。

 キングジョージ島での採集は2018年2月19日までの予定です。次回は少し異なる環境で見られる生き物を紹介します。

〔葛西臨海水族園調査係 児玉雅章〕

(2018年02月16日)


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