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オスになるべきか、メスになるべきか──ハムレットの複雑な繁殖行動
 └─2016/02/12

 カリブ海にすむ小型のハタのなかま、ハムレット類は、成熟した卵巣と精巣を同時にもつ雌雄同体(雌雄同時成熟)として知られています。雌雄同時成熟のハムレットは、どのように繁殖しているのでしょう。


 葛西臨海水族園の「世界の海」エリアの「カリブ海」水槽で展示しているハムレットの一種、バターハムレットは、おもに夕方の閉園間際から水槽照明が消える19時頃の間に繁殖行動を観察することができます。

 水槽内のハムレットは日中はバラバラにすごしていますが、産卵の時刻が近づくとペアをつくります。ペアのどちらか1尾が、卵でふくらんだお腹を相手に見せて誘い、他の1尾はその個体の後に続いて泳ぎます。そして先に誘った個体が上に向かって泳いで行くともう1尾も続き、2尾の位置が重なったところですばやく回転しながら、それぞれ卵と精子を放出します。このとき、先に泳いで行った個体がメス役となって産卵しますが、1回の産卵ですべての卵を出すことはありません。1回目の産卵が終わると、次は役割を逆転して2回目の産卵をおこないます。こうしてメス役、オス役を交代しながら、1日に卵を4〜5回に分けて産み、受精させるのです。

 ハムレットはなぜ卵を一気に出してしまわないのでしょうか。生物にとって卵を1個つくるには、精子1個をつくるよりはるかに多くのエネルギーが必要です。繁殖に同じエネルギーをかけるなら、オスとして繁殖した方が、メスとして繁殖するよりも有利で、より多くの子を残すことができるはずです。

 そこでもし、雌雄同時成熟の魚において、多くのエネルギーをオスとしての機能に投資した個体が現れたとします。この個体が、相手が産んだ卵を自分の精子で受精させ、自分は卵を出さずに逃げる「だまし戦略」を取ったとしたら、もっとも多くの子を残せるかもしれません。しかし、こうしたずるい個体が現れると、雌雄同時成熟を維持していくことは難しくなるだろうといわれています。このような「だまし戦略」の出現に対抗する手段が、卵を数回に分けて産むことなのです。卵を小出しにして産み、相手がそれに応えて卵を出したら、自分も次の卵を出すという方法は、「卵の取引」とよばれています。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 児玉雅章〕

(2016年02月12日)


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