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性転換するエビ、モロトゲアカエビ
 └─2015/10/16

 魚の世界で「性転換」と聞いて真っ先に思い浮かべるものはクマノミでしょうか。その他にも性転換をする魚は多数存在します。ただ、性転換するのはなにも魚だけではありません。今回紹介するのは性転換をする「エビ」、モロトゲアカエビです。


 モロトゲアカエビは「世界の海」エリアの「深海II」の水槽に展示しています。このエビは日本海沿岸から北海道、樺太にかけての水深180〜370メートルに生息する深海性のエビです。頭の先にある額角(がっかく)と呼ばれるとげの上下に細かいとげが並んでおり、この特徴から「双方の」という意味を持つ「諸」の字が当てられ、「諸棘赤海老」(もろとげあかえび)と名付けられたといわれています。

 さてこのモロトゲアカエビは、オスからメスに性転換をする「雄性先熟」(ゆうせいせんじゅく)という形をとります。性転換には他にも種類がありますが、これらは「どうすればより自分の子どもを残せるか」で決まります。

 モロトゲアカエビの繁殖は、なわばりなどを持たず、繁殖する準備が整ったオスとメスが偶然出会ったときにおこなわれます。このとき、オスは大きかろうと小さかろうと子どもの数はメスの卵の数しだいですが、メスの場合は大きければ大きいほど多くの卵を産むことができます。そのため、小さいうちはオスとして過ごし、大きく成長したらメスになります。


 また、このことから性転換する時期はみずからの体長によって決まり、モロトゲアカエビは頭胸甲長(眼の後ろのくぼみから甲の後ろまでの長さ)が2.5〜3.2センチまで成長するとオスからメスに性転換をすると報告されています。

 では、展示されている個体はオスとメス、どちらになるのでしょうか。観察してみると、見た目では頭胸甲長は2〜3センチぐらいに見え、性別の判定がむずかしい大きさです。もしかしたら、今まさに性転換をしている個体がいるかもしれません。

 調べれば調べるほど奥の深い「性転換」。今回はモロトゲアカエビにのみスポットをあてて紹介しましたが、性転換する魚たちについてはこれまでにも何度か紹介しています。

・性転換に関する記事
 「大変身する魚、クギベラ」(2015年4月3日)
 「タテジマヤッコの性転換」(2012年2月17日)
 「性転換をする魚、キンギョハナダイ」(2011年7月8日)
 「メスからオスへ、ホンソメワケベラの不思議」(2010年2月2日)
 「メスからオスへ、トサヤッコの性転換」(2007年9月21日)

 性転換は「いかに子どもを残すか」という繁殖戦略の一つに過ぎません。これを機にさまざまな繁殖戦略、とりわけ性転換の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 加茂耕太朗〕

(2015年10月16日)


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