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南の海でユウゼンを調べる
 └─2015/07/10

 ユウゼンはチョウチョウウオ科に属する日本の固有種で、八丈島以南の伊豆諸島と小笠原諸島をおもな分布域とすることから、東京を代表する魚のひとつと言えるでしょう。そして、友禅染を連想させる渋い体色は、まさに「和」の魚です。葛西臨海水族園では「東京の海」エリアで展示をおこなっているほか、保全活動の一環として、2012年度からフィールドでユウゼンの生態について調べています。

 その調査項目のなかに「繁殖生態」があります。これは、生物がいつ、どのように繁殖をするのかということです。チョウチョウウオ科魚類の繁殖生態についての研究は少ないものの、一夫一妻の種、ハレムを形成する種、群れで繁殖する種など、種やその場の環境によってさまざまなことが知られています。

 ユウゼンでは、過去の潜水観察と生殖腺に着目した研究から、ペアで行動することが多く、おそらく一夫一妻ではないかと考えられていますが、まだ謎のままです。

 
左:ユウゼンのペアと観察者 右:環境調査中

 葛西臨海水族園のユウゼン調査チームは、未知の生態を解明すべく、今年も7月初旬に小笠原諸島兄島で調査をおこないました。海況はおだやかで、荒波やにごりに襲われた昨年の調査とは違い、抜群の透明度のなかユウゼンを追うことができました。

 今回は、ユウゼンのペアが日中どのエリアを行動しているのかを調べる追跡観察や、その行動エリアの内の地形や、サンゴの種とその大きさなどの環境調査を実施しました。ペアの追跡観察では、行動エリアを把握できた以外にも、他のペアと一緒に泳いでみたり、一転警戒色を出してケンカをしてみたりと、フィールド観察ならではの面白い行動を見ることができました。

 これらの調査を継続して行うことにより、ユウゼンがどのような繁殖生態をもつのか、それにはどのような環境が影響しているのかわかり、保全に役立つことが期待されます。フィールドでの研究はそう簡単に結果が出るものではありませんが、これからも調査を続けていきたいと思っています。

〔葛西臨海水族園調査係 松村哲〕

(2015年07月10日)


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