ニュース
思い通りにならないトリノアシ
 └─2014/07/11

 葛西臨海水族園には深海コーナーがあります。光を嫌う生物が多いため、水槽内はやや薄暗く、奥の方に居るトリノアシも観察しづらい状況でした。「トリノアシをより近くで観察していただきたい!」という気持ちから、先日「深海1」水槽のレイアウトを変更しました。

 トリノアシとは、細い茎状の部分の上にユリの花のような器官をもつ、一見植物のような形をした不思議な動物で、ウミユリのなかまです。花状の部分は、肛門や口といった器官の周りを40本ほどの腕が取り囲んでいます。その腕の付け根部分が「鳥の足」のように見えるためにこの和名が付けられました。ウミユリのなかまの歴史は非常に古く、古生代には海底を埋め尽くすような栄華を極めた生物だったようです。同じころ、海中はアンモナイトやシーラカンスのなかまが泳いでいた時代です。その時代から大きく形の変わっていないウミユリのなかまも、まさしく生きた化石なのです。

 レイアウト変更当日は、まず水槽内に潜って石組みをアクリルガラス近くへ移動し、トリノアシが取り付きやすいようにしました。次に水流の調整です。この生物は、海中の流れに乗ってくるプランクトンなどを長い腕で捕まえて口に運ぶため、水槽内の水流をくふうすることが非常に大切になります。すべての調整が終わり、生物を水槽に戻します。トリノアシはもちろん水流が直接当たる一等地へ。
 しかし翌朝、一等地だと思った場所から少しずつ移動をしているトリノアシを発見しました。何が気に入らないのか、その後もゆっくりと移動を続け、2日後には観覧側からよく見えない水槽の端まで移動してしまったのです。再び微調整をし、ほかのトリノアシがいるすぐ横へと移動させました。すると今度は今まで腕を大きく広げていた先住のトリノアシがゆっくりと移動を開始する始末……。

 見た目はあまり動かない植物のようなトリノアシが砂地を移動していくようすは、それはそれで新たな発見もありますが、来園された方々には、やはり大きく腕を広げる姿を見ていただきたいのが本心です。そのためにも、この生物が好む環境を作れるよう、これからもチャレンジしていきたいと思います。

写真上:大きく腕を広げるトリノアシ
写真下:移動を開始するトリノアシ(左)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 増渕和彦〕

(2014年07月11日)



ページトップへ