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還暦を迎えたはな子さん──2007/01/05

◎文化園四季折々

 「ゾウのはなこさん」といえば、昔から動物園のゾウさんの代名詞ですが、“初代”は1935年(昭和10年)にタイ国から上野動物園に来たアジアゾウの「花子」です。タイでの名前を「ワンジー」といったこの個体は、太平洋戦争の際、猛獣処分で命を落としました。

 戦後、1949年(昭和24年)9月、同じくタイから「ガチャ」という名の仔ゾウが平和の使者として日本にやってきました。当時推定2歳でかわいらしいこの仔ゾウは、戦争中に亡くなった「花子」の名前を譲り受け、「はな子」と名づけられました。そう、戦後初めて日本にやってきたこのゾウが、今も井の頭自然文化園で元気にくらしている「ゾウのはな子さん」なのです。

 今年、はな子さんは還暦を迎えます。正確な誕生日がわからないため、当園では新年を迎えるときに年齢を加える「数え年」を使っており、その計算にもとづき、はな子さんはこのお正月でめでたく60歳になったわけです。

 国内動物園で飼育しているゾウのうち、現時点の最高齢は、神戸市立王子動物園の諏訪子。2番目は小田原動物園のウメコ、ついで札幌市円山動物園の花子と、井の頭のはな子さんが並びますが、日本でくらしている期間は、はな子さんが日本一です。もちろん当園の動物たちの中でも最長老で、お客さんの中には家族3代ではな子さんに会いにいらっしゃる方々も少なくありません。ゾウ舎のそばでは、「はな子」ではなく、親しみをこめて「はな子さん」と声をかけていただいているのが聞こえます。

 はな子さんは、井の頭に来てからずっと一頭でくらしてきました。若いころは人身事故を起こし、その結果、人間不信におちいるなどのつらい時期もありました。また、歯が不自由になって体調をくずしたりもしましたが、歴代の飼育係の努力と愛情のおかげで、現在は心身ともに元気です。

 ただ、はな子さんは寒い日には胸をぴくぴくさせて震えているような動きを見せるようになります。この行動を私たちは「しゃっくり」と呼んでいますが、はな子さんはもうおばあちゃんですから、気温の変化、とくに冷たい北風はきらいです。そんな季節になると、はな子は壁ぎわの日なたでひなたぼっこをすることが多くなります。ですから、寒くなってきたら、早めに部屋に入れてあげるようにしています。また、冬のあいだは冷たい風を防ぐため、夕方4時30分にゾウ舎のシャッターを閉めますので、はな子さんに会うときは、どうぞお早めに。

 今年9月の敬老の日には、はな子さんのお祝いを盛大におこなう予定です。それまでにも、はな子さんがみなさんの楽しい思い出に残るよう、いろいろな催し物を計画しています。今年は、はな子さんから目が離せませんよ!

〔井の頭自然文化園飼育展示係 木崎恒男〕

写真上 :神戸についたはな子さん(1949年)
写真中上:堀に落ちるハプニング。ロープで引かれ、ありあわせの資材で作られた階段を登って脱出(1965年)
写真中 :竹ボウキで体をきれいに(2003年)
写真中下:ホースで遊ぶ(2006年)
写真下 :2006年敬老の日、特製ゾウ型パンをもらいました

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・2007年2月16日追記

 日本国内の高齢アジアゾウ5頭
 (日本動物園水族館協会資料より。「春子」の来園日に
  ついては天王寺動物園よりご教示いただきました)

 王子動物園の諏訪子
  推定1943年生まれ。1950年9月28日来園

 小田原動物園のウメコ
  推定1946年生まれ。1950年9月29日来園

 円山動物園の花子
  推定1947年生まれ。1953年7月15日来園

 井の頭自然文化園のはな子
  推定1947年生まれ。1949年9月4日、上野動物園に来園。
  1954年3月5日、井の頭に来園。

 天王寺動物園の春子
  推定1949年生まれ。1950年4月14日来園

(2007年1月5日)



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