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オニバスの不思議──短い命でつぎの世代を残す戦略(※オニバスの展示は終了しました)
 └─ 2022/09/07(10/16更新)
※2022年10月11日、オニバスの展示は終了しました。



 2022年8月23日から、井の頭自然文化園水生物園でオニバスの展示を開始しました。

 オニバスは最大で直径1mを超える巨大な円形の葉をもつスイレン科スイレン属の水草で、その年の秋に種をつけ枯れてしまう「一年草」です。国内では本州・四国・九州の湖沼・ため池などに生育します。現在、全国的に減少しているため、環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に記載されています。

 オニバスの特徴といえば巨大な葉ですが、ほかにもとても興味深い特徴がいくつかあります。

 春、オニバスは種から発芽します。最初は5cmにも満たない「矢尻型」の葉が水面に現れ、その後、次々に現れる新しい葉は徐々に形が円形に近づき、サイズも大きくなります。大きく成長した葉の表と裏にはたくさんの鋭いとげがあり、「鬼(オニ)」という名前の由来にもなっています。この過剰とも思えるとげは、一体何から身を守っているのでしょうか。

 そして、夏から秋にかけて、オニバスは紫色の花を水面上だけでなく水中にも咲かせます(開放花)。さらに、水中にはつぼみの状態のままの「閉鎖花」が多く現れ、きちんと種を実らせます。不思議ですね。水中で、しかも蕾の状態で受粉するのです。この閉鎖花は、開放花と比べて、より確実に多くの種をつくることができます。

 さらに、今年展示したオニバスは、少なくとも4〜5年ほど前に実った種から発芽したものを育成しました。このように、オニバスの種は翌年にすべてが発芽するのではなく、数年から時には数十年経って発芽するものもあるのです。

 これらの特徴は、一年草という短い寿命と変わりやすい水辺の環境のなかで、つぎの世代へより確実に命を引き継ぐための周到な戦略なのでしょう。ぜひ間近で観察しながら、こんなオニバスの戦略にも思いを馳せてみませんか。


オニバスの展示

オニバスの花(開放花)
(撮影時期:2021年9月)
オニバスの花(閉鎖花)

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 田辺信吾〕

(2022年09月07日)
(2022年10月16日:展示終了について追記)



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