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オオコウモリの爪切りと捕獲・保定のひと工夫
 └─ 2022/03/12
 井の頭自然文化園では臨時休園が続いていますが、再開園の日に元気な動物たちをお見せできるよう飼育係は日々邁進しています。今回は、2021年5月の休園期間に行ったコウモリの爪切りについてご紹介します。

 当園のオオコウモリ舎では、沖縄諸島の固有亜種オリイオオコウモリを飼育展示しています。コウモリといえば、かぎ爪でさかさまにぶら下がる姿が印象的です。地上にいる天敵を避けるため、あるいは高いところからの落下を利用して飛ぶ方が少ない力で飛べるからなどの理由があると考えられています。

 コウモリの爪は、野生では樹木につかまることで自然と擦り減ります。しかし当園では、野生よりも擦り減る機会が少なくなりがちなため、爪が伸びすぎないよう定期的に飼育係と獣医師が切っています。そこで、休園期間にコウモリ舎のコウモリ10頭の全頭捕獲をおこない、飼育係と獣医師で爪切りを実施しました。

 動物園で小型の動物を捕獲・保定する際は、手袋をはめた手でつかんだり、捕獲網に入れたまま押さえたりすることが多いのですが、この方法では、服の袖口や捕獲網にコウモリの爪が引っかかったり、もつれたりしてしまうので、今回はバケツを使って捕獲・保定する方法を考えました。

 メリットはバケツの内面が滑らかで爪がかからず、捕獲もとまっているコウモリにバケツ容器をかぶせるだけなので、簡単かつ安全です。さらに、バケツ越しに読み取り機を当ててコウモリの体内に埋められたマイクロチップを読み取ることができ、個体識別も問題なくおこなえます。デメリットは、空気穴を開けると爪がかかってしまうため長時間バケツにコウモリを入れておけないことです。


バケツを使って捕獲

 そのため、捕獲後すぐの体重測定とマイクロチップの確認はバケツ収容でおこない、爪切りは、①手で保定する方法、②金網ケージにとまったコウモリの背中をバケツの蓋で押さえて保定し、網越しに外から爪を切る方法、③バケツの蓋のかわりにバケツ容器をかぶせて保定し、網越しに外から爪を切る方法の3つを試して、比べました。

 まず①では、コウモリの頭を持つ人、翼と足を持つ人、爪を切る人の3人がかりとなり、②と③では、バケツを押さえる人、爪を切る人の2人がかりとなりました。②と③を比べると、容器で保定する③の方がコウモリの動きは落ち着いていました。

 動物園での捕獲・保定方法は、種や個体、その目的や安全性によってさまざまあります。ここでご紹介したコウモリの全頭捕獲と爪切りでは、一度の作業で扱う個体数が多いなかで、なるべく短時間で進めることと、コウモリの負担を和らげることを優先して作業内容を計画・実施しました。一方で、手を使った保定は飼育係に求められる基本的な技術なので、日々の飼育作業で先輩方に教わり練習することも忘れず続けていきます。

① 手で保定し診察する
① 手で保定し爪を切る

② バケツの蓋で保定し爪を切る
③ バケツ容器で保定し爪を切る

〔井の頭自然文化園飼育展示係 坂上琴音〕

(2022年03月12日)



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