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ものぐさ園芸のススメ──農園芸職員からのささやかな提案
 └─2014/09/19

 植木鉢をひとつ用意して、その中に栄養に富んだ「生きた土」を満たすだけ。表面が乾いたら水をたっぷりと、鉢底から出てくるくらい与えましょう。

 みなさんが準備するのはたったこれだけ、後はしばらくのあいだ辛抱づよく水やりを続けていると、土の中にまぎれこんでいた種が目をさまし、小さな芽生えたちが顔をのぞかせることでしょう。

 おそらくその種は、近くの草花からこぼれ落ちたものが大半なのでしょう。しかしときには、周囲では見かけないような姿を植木鉢のなかに認めることがあります。その芽生えは、絶海の孤島の草はらで鳥たちによって啄ばまれ運ばれてきたことによるのかもしれませんし、見知らぬ街の路傍に佇んでいた草花から一陣の風が掬い取ってきた小さな綿毛であるかもしれません。

 ひとつの芽吹きにささやかなロマンを感じ、想像の翼を広げてひとり悦に入るというのも、このものぐさ園芸の醍醐味のひとつです。

 ものぐさ園芸のものぐさたる所以は、とにかく育てるために気を遣わないこと。来るもの拒まず、去るもの追わず。育て始めるとわかりますが、どんどんいろいろなものが生えてきます。取捨選択するもよし、全部まとめて育てるもよしです。

 キュウリグサやカタバミ、ドクダミなど、植木鉢に育った植物の名前を知り、そのくらしぶりに目を開けば、それまで緑一色でしかなかった草はらが生き生きと見えてきます。

 私も井の頭自然文化園での業務のかたわらバックヤードで10年近くものぐさ園芸を続けていますが、管理された植物の育成だけでは得られない感動を日々感じています。

 ものぐさ園芸で知る植物は、歩き慣れた園路や動物観覧通路など、みなさんの足元にも見ることができます。そういった地味な草花ほど生活スタイルや、不思議さ、可愛らしさを発見したときの喜びもひとしおです。園内だけでなく、みなさんの身近な場所でも発見があるでしょう。

 園芸に対して肩ひじ張らず、ものぐさ園芸を通じてこの機会にもっと身近な植物たちとのふれあいを深めてください。彼らとの素敵な出会いを果たしたみなさんにとって、井の頭自然文化園での散策は、きっとこれまでとは違って見えるはずです。

写真上:植木鉢に咲いたキュウリグサとカタバミ
写真中:ドクダミ
写真下:「生きた土」を鉢に入れる

〔井の頭自然文化園施設係 濱中和晴〕

(2014年09月19日)



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