ニュース
アジアゾウはな子の近況[8] 
 └─2012/01/06

 井の頭自然文化園では2011年11月18日から、アジアゾウ「はな子」に本格的なターゲットトレーニングの導入を試みています。ターゲットトレーニングとは、目標物(ターゲット)として棒などを使いながら、口頭で指示を与えて動きを学習させることです。

 見慣れないものを極端に気にするはな子なので、夏を過ぎたころから寝室内にターゲットとなるバーを置いておいたり、清掃作業に使う箒や熊手の先をバーと同じように印をつけたりして慣らしてきました。ちなみに、今回バーの材料として用いたのは、はな子が一番気にしないと思われる使い古しの箒の柄です。

 最初は、バーをもって給餌することから始めましたが、はな子はまったく気にするそぶりを見せなかったので、翌々日には号令を教え始めました。

 みなさんが思っている以上に、ゾウは賢い動物です。ほんの数日で「バーに頭を付けると良いことがある」と理解しました。後述する体調不良のためにトレーニングの中断もありましたが、今では完全に理解しています。今後、はな子の身体のケアはもちろん、メンタル面でのケアにもなるようなプログラムに発展させていきたいと思っています。

 さて、11月24日朝、ふだんと変わりなく運動場に出たはな子が、まったく餌を食べようとしません。寝室の残餌や糞の状況は特別変わったことがなく、原因がわかりません。何事かと心配しましたが、夜間に撮影しているビデオを再生することで、およその原因がつかめました。かなり頻繁に犬のお座りのような座り方を繰り返していたのです。ゾウは疝痛(お腹が痛くなること)を起こすと、このような動作をすることがあります。ここ最近の冷え込みによって、お腹を冷やしてしまったのでしょう。翌日完治とまではいきませんが、かなり快復してくれました。

 この日から、バナナやニンジン、リンゴ等は、湯煎して温めてから与えるようにしました。ところが、もう大丈夫だろうと思っていた矢先の11月30日朝、24日と同じような症状を起こしてしまいました。ビデオを見ると夜間の状況も同じです。このときも、翌日までにかなり快復したのですが、今まで問題なく食べていた整腸剤を嫌がるようになってしまいました。あくまで私の推測ですが、疝痛を起こしたあと、多めに整腸剤を与えたことにより、「お腹が痛いこと」と「薬の味」が、はな子の記憶の中で結びついてしまったのではないかと思います。

 翌日から整腸剤の種類を変えたり量を調整したりして、今は別の整腸剤を嫌がることなく食べてくれています。

 ふだんは、まだまだ長生きできるように見えるはな子ですが、年齢を考えると、ちょっとしたことで大事に繋がってしまう可能性があります。今後も、不調のシグナルを見落とすことなく、気をつけて飼育に臨まなければならないなと、改めて感じされられた出来事でした。

 ところで、はな子の正確な誕生日の日付はわかっていません。そこで当園では、元旦をもって1歳ずつ年齢を重ねていくことにしています。ということはそうです! この文章をみなさんが読んでいらっしゃるときには、はな子は、日本で飼育されたゾウの長寿記録に並んでいるのです!

 ぜひ、日本記録、いや、世界記録保持者になり、いつまでも長生きしてもらいたいものです。

〔井の頭自然文化園飼育展示係 高橋孝太郎〕

(2012年01月06日)



ページトップへ