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北海道にミズグモを訪ねて
 └─2009/10/16

 井の頭自然文化園水生物館でのミズグモの展示は、今年(2009年)で5年目になりました。今までに3回、北海道でミズグモの採集と生息調査をおこなっています。調査する場所は、海岸沿いにある見わたすかぎりの湿地帯で、人家は少なく、ときおりエゾシカが見られるような場所です。湿地といっても、ほとんど乾いて水がなくなっている湿地や、深くて水深がよくわからない環境までさまざまです。

 この広大な湿地に足を踏み入れ、ミズグモを求めて全域を調査していくわけですが、ただやみくもに歩くだけでは、とても見つけられません。そこで手がかりになるのは植物の種類です。

 抽水植物(根は水底にあり、茎や葉を水上に出す植物)は、水深によって生える種類がおおよそ決まっています。そこでまず、湿地に入る前に陸地から眺め、植物の種類を調べて、水がどれくらいあるかを予想します。といっても予想通りにいかないこともあり、結局体力勝負になります。そして、行きあたった湿地でどんな生物がいるのかを調べていくのです。

 湿地に生息する生物は多様です。トゲウオのなかま、ホトケドジョウ、フナなどの魚類、トンボのヤゴ、ゲンゴロウ、コオイムシといった水生昆虫、そして、お目当てのミズグモを含むクモのなかま数種類などが見られます。また、水草の種類も豊富で、20種類以上が生い茂っています。

 ミズグモの好む場所はアシやガマが適度に生い茂り、水草が水面までおおっていて、それほど深くはなく、水面に適度に日のあたる場所です。これほど条件の整った場所はなかなかないようにも思えるのですが、調査地では、ミズグモがどこにいてもおかしくないような場所が延々と続き、私たちを悩ませます。

 ミズグモは他のクモに比べると、とても弱々しく、動きも緩慢です。網ですくうと、いろいろな種類のクモが網に入ります。他のクモは機敏な動きで、さっと網から逃げていきますが、ミズグモは遅れること数秒、ようやくもぞもぞと動き始めます。そして、網から出ようと登ってくるのではなく、網に入った枯葉や水草の中に潜り、網の目から抜け出ようとするところが、他のクモとちょっとちがいます。

 今回もなんとかミズグモの生息場所を見つけ、採集することができました。水生物館では、この採集したミズグモを飼育し、繁殖もさせています。おとなりの三鷹の森ジブリ美術館では、このミズグモを主人公にした映画「ミズグモもんもん」を上映中です。ぜひ、井の頭自然文化園で実物のミズグモを観察してから、映画の「ミズグモ」もごらんください。

・東京ズーネットBBの動画「水中で生活するミズグモ」(2006年7月撮影)
・ニュース「ミズグモの調査と採集」(2007年9月実施)
・ニュース「ミズグモの生息地へ」(2008年10月実施)

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 中村浩司〕

(2009年10月16日)



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