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続・新たな視点で見てみると(47)卵胎生ではなかった──ユメカサゴ
 └─葛西  2014/03/28

 2014年1月、葛西臨海水族園でキンメダイやムツ、タカアシガニなど、少し深い海に生息する生物を展示している「深海の生物3」水槽で、卵が回収されました。この卵はゼリー状の物質にたくさんの小さな卵が包まれた、卵塊と呼ばれる状態で水面に浮いていました。

 どの生物が産んだ卵だろうかと考えてみましたが、キンメダイやムツなどの卵は一粒ずつバラバラになる卵なので違います。タカアシガニは孵化するまで卵を大事におなかに抱えて守るのでこれも違います。消去法でいくとこの水槽に14匹展示(1月時点)しているユメカサゴの卵だろうということになりました。

 そこでユメカサゴの卵について調べてみると、なんとユメカサゴは卵を産まない「卵胎生」であると出てきます。卵胎生とは受精卵がメスのおなかの中で孵化して、小さな魚の状態で生まれてくることをいいます。2007年に出版された1,200ページもある専門書や、水族園職員が調べ物をするときに頼りにしている世界中の3万2千種以上もの魚のことが載っているウェブページにも、卵胎生であると書いてあります。

 それならばこの卵を孵化させて、本当にユメカサゴに育つかどうか調べてみようと思い立ち、卵を小さな水槽に移して育成を始めました。今回の動画はこの卵の孵化の瞬間と、その1か月後の仔魚のようすです。

【ユメカサゴの動画】
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 育った仔魚を見てみると、どうやらユメカサゴで間違いなさそうです。分厚い専門書も権威あるウェブページも、間違った情報が載っている可能性はあります。なにせ、深海に生息しているユメカサゴの繁殖行動など誰も見たことがないのですから。

 水槽で飼育されている状態なので、実際の海での行動や形態と違っている可能性もあります。しかし、本来の生息域でその行動を観察することが難しい深海生物などの生態解明には、水族園がもっと役に立てるのではと考えさせられる出来事でした。

写真上:水槽で展示しているユメカサゴ
写真中:今回見つかった卵塊
写真下:孵化後50日の仔魚

〔葛西臨海水族園飼育展示係 三森亮介〕

(2014年03月28日)



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