その生態に未知の部分も多い地中生活者モグラ。多摩動物公園では約15年前からモグラの飼育展示に取り組んでいます。飼育技術もある程度確立され、5年以上生きる個体もいます。
今年も5月にコウベモグラの採集に行きました。モグラ塚の下を掘り、筒型トラップを巣穴にしかけて捕獲します。しかし、今年はモグラ塚が少なく、採集できたのは2泊で2頭でした。小さな1頭は餌を食べず、動物園到着の翌日に死亡しましたが、もう1頭は他個体の倍以上を食べるほどでした。昨年採集したメスが食欲旺盛だったため、今回も妊娠の可能性があります。
昨年は、展示にも使用しているテーブル式の飼育装置に6〜7センチの厚さに土を入れ、アクリル板で蓋をして出産させましたが、残念ながら1週間後には子の姿がなくなっていました。観察するには便利なアクリル板ですが、光が入るので母親が落ち着かなかったのかもしれません。
そこで、本来の巣穴に近い状態を再現するために40×70×高さ40センチの衣装ケースに八分目まで黒土を入れ、外に給餌用の小さなプラケースを置いてパイプで連結し、そこへ個体を入れるとすぐに穴を掘って土に潜り始めました。巣材として土の上に置いた落葉や乾草は、野生と同様、巣材としてすべて運び込まれたらしく、いつの間にか跡形もなくなりました。ケースは奥の部屋に置き、加湿器を常時動かして土の乾燥を避け、消灯して暗くしました。なるべく立ち入らないようにしたせいもありますが、その後モグラの姿を見ることはありませんでした。しかし、採集から約1週間経つと、採食量が他のモグラと変わらなくなりました。巣穴の中を確認することもできず、しばらくようすを見るしかありません。
捕獲後2週間経った6月6日午後、給餌ケースの隅に餌のピンクマウス(ネズミの赤子)が泥にまみれて転がっていました。ふと移動用パイプを見ると、血液が少量混じった粘液がついています。まさかと思いながらピンクマウスを確認すると、顔の両脇にひだのようなものがあります。拾い上げて確認すると、ひだは前肢であり、ピンクマウスではなくモグラの新生児とわかりました。衰弱していますが、わずかに動いています。すぐ病院の保育器に移して温めると、薄いピンク色だった体色もみるみる赤味を帯び、足をバタバタ動かすようになりました。体長は45ミリほどしかありません。一番細いシリンジを使い、ミルクの滴を口に含ませるように与えました。
【モグラ新生児の動画】
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6月6日は2時間おきに22時まで哺乳し、最後の哺乳後には排便も確認されたのですが、翌朝再び動きが緩慢になり、血色も悪化。哺乳したものの、衰弱して死亡してしまいました。解剖の結果、皮下出血がありました。母親に噛まれたようです。残念な結果ですが、モグラの新生児の動画は世界的にも貴重です。モグラの生態についてほんの一部ですが知ることができました。
写真上:発見直後のコウベモグラの子(人差し指と大きさを比較)
写真下:保温後に元気を取り戻したところ
〔多摩動物公園南園飼育展示係 熊谷岳〕
(2013年06月14日)