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ニホンザル「エチゴ」の死
 └─多摩  2012/09/28

 多摩動物公園のニホンザルの中で最も貫禄があり、子どもザルやメスたちなど仲間からの信頼も厚く、来園者や動物園関係者からもひときわ注目を集めていた、第1位オスの「エチゴ」が2012年8月24日に急性膵炎で死亡しました。死亡時の年齢は23歳で、人間に例えれば60歳を超える年齢ですが、経験や仲間からの信頼の厚さを考えると、リーダーとして脂の乗り切った時期での急逝といえるかもしれません。

 野生のニホンザルは、オスは生涯さまざまな群れを渡り歩き、メスの血縁のつながりが群れを維持していく母系社会で、ボス的な役割をもつものは存在しないといわれています。

 動物園ではどうでしょうか? ニホンザル担当者として過去三度の第1位オスの交代を見てきました。エチゴの前には、メグロというリーダーがいました。エチゴと比較してもさらに威厳があり、仲間から頼られる存在でした。上野動物園では14年間リーダーを務めていた27歳のロンと、7歳で見事な体躯のサトイモとの順位交代を観察できました。

 エチゴ、メグロ、ロン、サトイモの4頭のリーダーに共通することは、ほかのどの個体からも一目おかれていて、とくに上位のメスから支持を受けていることと、外敵に率先して立ち向かうことでした。

 エチゴの死亡により、残ったオスたちの関係がどうなるかを観察しています。 20歳で最年長の「ドラ」、1歳下の「ミズキ」、11歳で立派な体格の「セタシジミ」の3頭あたりがリーダー候補でしょうか。

 ドラは、外敵(ここでは、網で捕まえにくる飼育係)に向かって威嚇します。飼育係がいつもと違うものをもっていたり、転んだりすると、群れのほかの個体はサーっと逃げますが、ドラだけは勇気を奮って前に出てにらみをきかせます。もう一方の有力候補は若いセタシジミです。なお、DNA解析によると近年誕生した子どもの多くは、セタシジミが父親と判定されています。この2頭は今は敵対した関係ではなく、セタシジミがドラに毛づくろいをする関係が観察されています。

 さて、次の「ボス」はいったい誰なのでしょうか? メスや子どもたちに取り囲まれ、頼りにされている個体はいるでしょうか。ぜひ観察してみてください。

写真:群れの中の「ドラ」(中央)

〔多摩動物公園南園飼育展示係 由村泰雄〕

(2012年09月28日)



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