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イッカククモガニがやってきた
 └─葛西  2012/01/27

 葛西臨海水族園の「東京の海」エリア2階に「葛西の海」水槽があります。ここでは、すぐ目の前の人工干潟「西なぎさ」で毎月おこなう地曳網調査で見られた生物を展示しています。そこに2012年1月の調査で採集されたイッカククモガニが加わりましたので紹介します。

 このカニは、以前の記事でもご紹介した「タカアシガニ」と同じクモガニのなかまです。

「タカアシガニが2匹に増えた!?」(2012年01月20日)

 イッカククモガニは、洋梨型の甲らと細長い脚をもち、その名のとおり「クモ」のように見えます。また、タカアシガニが世界最大のカニと呼ばれるのとは対照的に、大きくなっても甲らが2センチほどにしかなりません。

 イッカククモガニは外国からやってきた生物で、もともとの分布域はアメリカのカリフォルニアからコロンビアにかけての沿岸です。海外を行き来する船にまぎれて入ってきたらしく、今では韓国やオーストラリア、アルゼンチンなどで定着が確認されています。

 日本では東京湾、伊勢湾、大阪湾など、大きな港がある大都市の内湾に多く生息していることがわかっていますが、それは大都市の内湾の環境とイッカククモガニの生態が深く関係していると考えられています。

 家庭や工場から多くの排水が流れ込む東京湾の内湾は、栄養が豊富でプランクトンが大量に発生します。そのプランクトンが死んで海底に積もり、分解されるときにたくさんの酸素を使います。とくに水温が高くなる夏場には、海面と海底の水温に差が生じて水が混ざりにくく、海底の酸素の濃度はさらに低くなるため、泳いで移動できる魚などは逃げてしまい、動きの遅いカニや貝などは死んでしまいます。夏の東京湾の海底には、生物のいない場所ができるのです。一方、イッカククモガニは一年中繁殖できるので、秋になって酸素の濃度が回復する時期になると、その子どもたちがいち早くやってきて住みつき、冬から春にかけて繁殖し増えていきます。

 当園でおこなった「西なぎさ」沖の潜水調査でも、夏場にまったく見られなかったイッカククモガニが、その年の12月には大小さまざまなサイズでたくさん確認できたことがありました。

 一見小さくて弱々しいカニですが、新しい外国の海の環境を巧みに利用して生きているその姿をよくごらんください。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 金原功〕

(2012年01月27日)



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