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「若」アユの展示
 └─井の頭 2011/06/24

 毎年6月から各地でアユ釣りが解禁になり、川に入ってアユ釣りをする姿は、初夏の風物詩になっています。また食べても美味しいことから、昔から各地でアユは大切に扱われています。

 井の頭自然文化園水生物館では、オイカワが展示されている水槽で2011年5月下旬から、体長10センチメートルほどの若いアユの展示を再開しました。

 アユの一生はわずか1年でいわゆる「年魚」(ねんぎょ:生まれた年に死んでしまう魚)であるため、年間を通じて展示することが難しい魚です。

 アユは、秋から初冬にかけて川の下流域で産卵します。孵化した仔魚は、すぐ海に下り、沿岸や河口近くで翌年の早春から春までプランクトンなどを食べながら育ちます。このころは体がまだ透明で、中層をか弱く泳いでいます。

 葛西臨海水族園がおこなった調査では、葛西のそばの東京湾で主に12月から3月にかけて出現していました。

 川を遡上するころから体が黄金色に染まり始め、一足早く川の中流域まで達して成長した魚は、川底の石に生えた主食のコケを独占するために縄張りを作り、そこに侵入するほかのアユを追い払うようになります。縄張りの面積は1尾当たり1平方メートルほどといわれていますが、アユの生息密度、コケの密度あるいは地形などによっても変わるようです。なお、中流域に達したアユがすべて同じ時期に縄張りをつくるわけではありません。前述のように産卵期が比較的長いため、遅れて川を遡上した成長途上のアユたちは、群れで行動し、川に生息するカゲロウ類の幼虫なども食べています。ちなみにアユの友釣りは、縄張りを作るアユの習性を利用したもので、おとりのアユに対して攻撃してきたアユを引っかける釣り方ですが、ある程度成長したアユしか釣れないことから、資源保護を考えた先人の知恵がうかがえます。

 話が脱線しましたが、水生物館のアユには、どのように餌を与えていると思いますか?

 本来はコケを与えたいところですが、水槽の中では十分なコケが生えません。たとえ少し生えたとしても同居しているボウズハゼに食べられてしまいます。そこでやむなくアユ養殖用のペレット(人工餌料)やアカムシなどを与えています。ペレットのほうは、タイマー設定された小型自動給餌機で1日数回給餌されるようになっています。

 ところで、アユは非常に人気のある魚であることから各地に放流されてきました。とくに、海に下らず一生を淡水で過ごす琵琶湖産のコアユは、稚アユの確保が容易だったこともあり、各地に放流されてきました。ところが近年、このコアユは、アユで海に下るアユとは遺伝的に異なる可能性が示唆されており、遺伝的な汚染が心配されています。

 また一方霞ヶ浦では、近年アユが増えているようです。清流とは縁遠く、かつ現在では海との行き来がほとんどできない湖ですが、そこに流入する河川では、以前ほとんど見られなかったアユの群れが観察されることもしばしばあります。かつての砂や泥の河床が護岸改修によってコンクリートやブロックに姿を変えたため、アユの主食であるコケが多く付着する場所が増えたという皮肉な結果が指摘されることもあります。

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 池田正人〕

(2011年06月24日)



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