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アジアゾウはな子の近況[3]
 └─井の頭 2011/06/07

はな子との再会

 2年ぶりに、はな子と再会しました。

 私はこの2年間上野動物園で勤務していましたが、それ以前はこの井の頭ではな子と5年間同じ時を過ごしてきました。

 再会を前に、私は二つの小さな不安を持っていました。

 一つは久しぶりに会うはな子は「自分のことを覚えてくれているのだろうか?」という不安です。

 4月1日、久しぶりに会ったはな子は2年間の空白などなく、昨日まで会っていたかのようにごく自然に私の事を迎え入れてくれました。鼻をなでながら額に手を当て「はなちゃん、久しぶりだね」と云うとはな子も額を「グルグルグルグル」と鳴らして応えてくれました。

 もう一つの不安は、高齢なはな子が「以前のように元気なのだろうか?」ということでした。

   歳をとってやせたのではないか?
   足腰が弱くなってしまったのではないか?

 そんな心配がありましたが、実際に再会したはな子は全くと言っていいほど以前と変わりありませんでした。というよりむしろ少し太った感じがしましたので前任者に聞いてみるとやはり以前より一食餌を多く与えているという事でした。

 元気なはな子ですが、見てすぐに2年前とは違う変化も目にとまりました。以前は無かった背中にたくさんのボツボツが広がっていた事です。

 2年以前に担当していた時にも多少はあったのですが私が居ないこの2年間でこれほど広がっているとは思いませんでした。前任者に聞いたところ、この2年間で徐々に増え、真菌(カビ・水虫などの様なもの)ではないかということで薬を散布していたが効果はないということでした。

 さっそく皮膚から検体をとり検査機関に出しました。結果が出るまで3週間以上かかったのですが真菌やウイルスは検出されず飛び火の様なものではないかと云う結果でした。

 聞くところによると前任者が頻繁に高圧洗浄機ではな子を洗っていたそうですがこれが逆効果で強すぎる刺激が飛び火を広げてしまった可能性があります。今後は柔らかくブラッシングなどをしてあげたいと思います。ちなみに白くボツボツ見えるのはニキビのあばたのように治った後です。

 もうひとつ、左前肢の爪に長径2センチほどの穴が開いているのが直ぐ目につきました。

 はな子は室内に入舎するとき大扉の溝に必ずこの爪を掛けて歩幅を調整してから寝部屋へ入ってきます。ここには以前もひびが入ったこともありました。上野動物園で同様なゾウの爪の治療経験のある獣医師の診断によると、現状では心配ないという事でした。

「はなちゃん、元気そうだけどやっぱり歳をとったな」

「あたしも64(日本最高齢)よ、若い時とは違うのよ。あんたこそずいぶん頭が白くなったわよ」はな子が私の目を見ながらそう言いました。

「ハッ、ハッ、ハッ、そう、お互いにね」


〔井の頭自然文化園飼育展示係 室伏三喜男〕

(2011年06月07日)



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