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難産だったトナカイ「ヨシコ」の出産
 └─多摩  2010/06/11

 現在、多摩動物公園では、トナカイの成獣6頭(オス1頭、メス5頭)を飼育しています。当園では、メスの糞中のプロジェステロンとエストロジェンというホルモン値から妊娠を判断する研究をしています。その結果、2010年はすべてのメスの妊娠が予想されていました。そしてゴールデンウィークで賑わう中、予想通り、立て続けに出産しました。

 4月28日、最初に出産したのはハナ(2001年生まれ)でスムーズな出産でした。ハナは昨年も立派に子育てをしたので、私も安心して見守ることができました(昨年のハナの出産についてはこちらをごらんください)。

 そして4月30日には、ヨシコの乳房が張ってきたため、安心して出産できるよう隔離しました。ヨシコはハナと同じ9才ですが、初産のため難産が心配されました。

 翌5月1日、ヨシコは午後4時半頃から横になって力み始めました。午後7時には破水直前で、羊膜の中に子の前肢の蹄部分が見えてきました。しかし、30分程見守りましたが産道がうまく開かず、それ以上進行しません。このままでは子が子宮内で死んでしまい、母体にも危険が及ぶ可能性があるため、助産することになりました。

 獣医と飼育係総勢12人が集まり、午後7時50分作業開始です。まず飼育係が壁際にヨシコを追い込み横に倒します。そして四肢や頭・胴体をしっかり押さえ、獣医がヨシコの産道に手を入れます。子の頭の位置を確認し、慎重に子を引っ張り出します。
 作業開始から10分ほどで滑るように子が出てきました。生存が心配されましたが、獣医の「生きてる!」という一言で、一瞬にしてその場が熱気に包まれました。命の誕生の瞬間です!

 羊水で濡れた子の体を急いで乾かし、すぐに親子だけにしました。ヨシコは自分の子と認識し体を舐め始めました。しかし、子はなかなか立ち上がれません。
 1時間ようすを見ましたが、母親の乳房に吸い付くことができないようです。元気に育つには初乳を飲むことがとても重要です。初乳には、豊富な栄養素や免疫物質が含まれているからです。やむを得ず、ヨシコを押さえ子の口元に乳首を持って行きましたが吸いません。結局、乳を搾り、直接子の胃の中に流し込みました。この授乳の努力のおかげか、翌日にはしっかりと立ち、元気な姿を見せてくれました。

 「トナカイ」がアイヌ語を語源とすることから、2頭にはアイヌ語の名前を付けました。ヨシコの子(メス)は『美しい』という意味の「ピリカ」、ハナの子(オス)は「大きい」という意味の「ポロ」です。現在、2頭とも放飼場に出ています。親子の仲睦まじい姿をぜひ見にきてください。

写真上:破水直前、子の前肢の蹄が見える
写真中:助産作業中のようす
写真下:翌朝、母親の乳房を探す子

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〔多摩動物公園南園飼育展示係 宇野なつみ〕

(2010年06月11日)



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