ニュース
ニホンツキノワグマのターゲットトレーニング
 └─上野  2009/11/06

 上野動物園では、2009年10月からツキノワグマのターゲットトレーニングを始めました。動物に対して柵ごしに口頭で指示を出し、こちらが差し出した棒や手(ターゲット)に体の一部を触れさせるトレーニングです。指示どおりにできたら特別な「ごほうび」を与えます。たとえば、私が「おしり」と言ったとき、クマがおしりをターゲットにくっつければ甘いレーズンを与え、指示どおりに動けるようにトレーニングするわけです。

 ターゲットトレーニングは、動物の体を間近で観察できるだけでなく、麻酔なしで、血液や精液、体毛などの採取やかんたんな治療ができるようになります。さらには、動物が飼育係と接することに慣れ、また、気分転換にもなり、ストレス軽減につながるともいわれています。上野動物園では、ゴリラやアジアゾウのオスなどに対して、ターゲットトレーニングをおこなっています。

・関連ニュース「アジアゾウ『アティ』のターゲットトレーニング

 トレーニングを始めたきっかけは、先月(2009年9月)、アメリカのシアトル郊外にあるウッドランドパーク動物園を訪ねたことです。ここではグリズリー(ヒグマの亜種)をトレーニングしていました。2年前、私もエゾヒグマのトレーニングに着手し、「鼻」「立つ」「座る」をおぼえさせましたが、他の仕事が忙しくなったため中断してしまいました。しかし、ウッドランドパーク動物園のグリズリー担当者と話し、トレーニングの大切さを再認識。もう一度やってみることにしました。

 ツキノワグマでトレーニングを始めたのには2つ理由があります。ひとつは3年前からおこなっている冬眠展示です。私たちは冬眠中のクマの体温や呼吸数など、体の変化を調べていますが、もし採血できるようになれば、ホルモンやストレスの測定などについて新しい研究ができるかもしれません。

 ふたつ目は、人なれしていない「ソウ」(オス、4歳)が、トレーニングを通じて、ふだんリラックスできるようになると考えたからです。

 3頭のクマたちは、朝、運動場へ出る前にトレーニングしています。クマたちに初めてターゲットを見せたとき、まず臭いをかいだので、「鼻」の指示から教えています。また、クマが飽きてきたらすぐ中止しているので、今のところ、トレーニングは3~4分間の短時間しかおこなっていません。

 先日、ソウはターゲットの棒をかじって壊してしまいました。思いどおりには進みませんが、少しずつできるようになればと楽しみにしながら、トレーニングを続けています。

写真上:ターゲット棒への反応を教える
写真下:ごほうび

〔上野動物園東園飼育展示係 井手桂子〕

(2009年11月06日)



ページトップへ